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第3回 新しい認知症観(2025年01月22日)

 もしも突然、“あなたの認知症観を教えてください”と尋ねられたら、びっくりすると思います。かくいう私も「私の認知症観は○○です」と一言で表すのは難しいです。日頃、自分の認知症観について言葉にする機会が少ないからかもしれません。

  ですが、改めて胸に手を当てながら振り返ってみると「花瓶に生けた花を愛でながら、枯れた葉や花を丁寧に取り除き手入れをするAさん」や「実習終わりの看護学生に『気をつけて帰るんだよ』と言い、手を振って見送るBさん」の姿が思い出され、自分の認知症観は、認知症のある人たちとの出会いによって創られてきたことを実感します。

  2024年12月、国会で認知症施策推進基本計画が閣議決定されました。この基本計画は、認知症基本法の施行に伴い、認知症の本人や家族も参加する関係者会議で検討され,まとめられたもので、「新しい認知症観」への転換が打ち出されています。ここで示された「新しい認知症観」とは、認知症になったら何もできなくなるのではなく、認知症になってからも、一人ひとりが個人としてできること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間等とつながりながら、希望を持って自分らしく暮らし続けることができる、という考え方です。しかし、法律が施行され、基本計画が策定されたからといって、すぐに共生社会が実現するわけではありません。だれかが共生社会を創ってくれるわけではなく、自分たちで行動していくのです。では、具体的にどんなことから始められるでしょうか。

  以前私は、当事者の方々の日常生活の困りごとを聞かせてもらいたいと思い、地域の認知症本人ミーティングに参加したことがありました。しかし、参加者は一様に「特に困っていることはありません、自分なりに工夫しながら普通に生活しています」と明るく話してくださったのです。この時、私自身が認知症のある人は「支援が必要な人」という先入観で見ていたことにハッとさせられました。大切なことは、新しい認知症観の定義を理解することよりも、私たち一人ひとりが実感をもって「認知症観」を創り直していくことではないかと思います。そのためには、認知症の本人(患者さん、利用者さん、ご近所さん等)と出会い、目の前の人に関心を寄せて耳を傾け、対話することから共にはじめてみませんか。

植田美菜子(プロジェクト委員会委員、共立女子大学)