Sunhee Park PhD RN, Jung Hwan Park PhD MD (2024)
Effects of digital self-care intervention for Korean older adults with type 2 diabetes: A randomized controlled trial over 12 weeks
韓国の2型糖尿病高齢者におけるデジタルセルフケアを用いた介入の効果検証:12週間のランダム化比較試験
Geriatr Nurs. 2024 July–August; 58:155-161.
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.05.019
本研究は、韓国のⅡ型糖尿病を有する65歳以上高齢者105名を対象に、DiaNoteアプリを用いたセルフケアの効果をランダム化比較試験によって検証した研究である。 本研究では53名の介入群、52名の対照群の2群に分け、介入群にはDiaNoteアプリで、対照群には従来のログノートで食事、運動、薬剤、血糖値を12週間記録してもらった。 DiaNoteアプリを使用することによって、糖尿病患者がスマートフォンから日々の生活習慣の記録や血糖管理ができ、記録したデータを医療機関と連携させることで指導にも活用が可能である。 また、ディスプレイのデザインや機能設定は、高齢者が使いやすいように工夫されている。介入群に対しては、DiaNoteアプリから毎日リマインダーが届き、3日間連続血糖値が異常であった場合には警告通知が届いた。 セルフケアの有効性の評価項目は、HbA1c値、SDSCA(糖尿病セルフケアを評価)、自己効力感、DQOL(糖尿病患者への生活の質を評価)とし、一般化推定方程式にて解析した。 解析の結果、12週間の介入において、介入群ではHbA1c値が有意に減少し、SDSCA、DQOLは両群ともに有意に向上した。一方、自己効力感は両群ともに変化がみられなかった。 本研究より、デジタルセルフケアアプリを用いた介入は血糖コントロールに有用であり、従来の自己管理ノートと同様に生活の質の向上にも有用であることが明らかとなった。
この研究では、韓国のⅡ型糖尿病を有する高齢者を対象に、DiaNoteアプリというスマートフォンアプリを用いた糖尿病自己管理の効果検証についてまとめられています。 医療保健分野においてもデジタル化は急速に進展していますが、その一方で高齢者のデジタルデバイド(情報格差)問題は深刻化しています。 ご紹介したDiaNoteアプリは高齢者が使いやすいよう設計されており、デザインも工夫されています。 DiaNoteアプリについては論文に写真付きで説明されていますので、ご関心のある方は是非ご覧ください (※doi:10.1016/j.gerinurse.2024.05.019.にアクセスいただき、Appendix. Supplementary materialsの下にあるDownload : Download Word document (3MB)をクリックいただくとご覧いただけます)。
Li-Min Kuo, Yea-Ing L. Shyu, Yen-Kuang Lin, Wen-Chuin Hsu (2024)
Mediating effects of predictability between caregiving demands and caregiving consequences for persons living with dementia: A longitudinal study
認知症を持つ人の介護需要と介護結果との関連における介護の予測性の媒介効果:縦断研究
Geriatr Nurs. 2024 July–August; 58:430-437.
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.05.028
本研究は、認知症を持つ高齢者(以下、認知症高齢者)の家族介護者を対象に、介護需要(被介護者に対して家族介護者が行うタスクの量)と介護結果としての心身の負担との関連における介護の予測性の媒介効果について縦断的に検討することを目的とした。 参加者は神経科を受診する認知症高齢者の家族介護者200名とし、便宜的サンプリング法を用いてリクルートした。調査期間は2年間とし、自記式質問紙を用いて、属性、Predictability scale of Family Caregiving Inventory(日々の介護の中でどのくらい予測しながら介護ができるかを評価)、 中国版Caregiving Activities Scale of the Family Caregiving Inventory(介護へのタスクパフォーマンスを評価)、介護負担感、鬱症状、HRQoLについて、ベースライン、1年後、2年後の計3回測定した。統計解析には一般化推定方程式を用いた。 解析の結果、介護の予測性は介護需要と介護による心身の影響(介護負担、鬱症状、HRQoL)を媒介していることが明らかとなった。 本研究より、家族介護者は認知症高齢者からの介護需要が高くても、予測しながら介護を行うことで介護による心身への負担が低くなることが示された。
この研究は、認知症高齢者の家族介護者を対象に台湾で実施された調査です。認知症高齢者の家族介護者において介護需要と介護負担との間に介護の予測性が媒介していることが2年間の縦断研究により報告されました。 家族介護者への介護負担に関する研究はこれまで多く報告されており、家族介護者への支援も進められているものの、課題はまだまだ山積みです。 この研究は、認知症高齢者を介護する家族の介護負担軽減について考える上で有用な論文となっています。
Yuling Jia PhD, Yuexue Yue MSN, Yu Sheng PhD (2024)
Self-neglect as a mediator between family functioning and healthy aging in older adults living alone in rural China: A cross-sectional study
中国農村部の独居高齢者においてセルフネグレクトが家族機能とヘルシーエイジングとの媒介要因となる:横断研究
Geriatr Nurs, 2024 July–August; 58:410-415.
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.06.004
本研究は、高齢者において家族機能とヘルシーエイジングとの関連におけるセルフネグレクトの媒介効果について検討することを目的とし、中国農村部の独居高齢者225名を対象に質問紙調査を実施した。 調査期間は2023年7-9月であった。ヘルシーエイジング、セルフネグレクト、家族機能に関して、それぞれHealthy Aging Instrument、Elderly Self-neglect Assessment (Rural)、Family Adaptation, Partnership, Growth, Affection, and Resolve scaleにより評価した。 解析の結果、家族機能とヘルシーエイジングとの間に正の相関が認められた。また、セルフネグレクトは家族機能とヘルシーエイジングを有意に媒介していた。 本研究より、中国農村部の独居高齢者において家族機能はヘルシーエイジングに有意に関連していること、その関連にはセルフネグレクトが媒介していることが明らかとなった。 今後、家族機能を見直しセルフネグレクトへの対策を行うことが地域で暮らす独居高齢者のヘルシーエイジングの促進に有用であることが示唆された。
この研究は、中国農村部の独居高齢者を対象としたセルフネグレクトに関する研究で、ヘルシーエイジングにはセルフネグレクトを予防し家族機能を向上することが重要であることが報告されています。
日本においても孤独死の8割以上はセルフネグレクトが原因であり、その多くが高齢者であることが報告されていることから(岸, 2023)、セルフネグレクトへの対応は喫緊の課題です。
この研究は、独居高齢者へのセルフネグレクトに関する課題や対策を考える上で有用な論文となっています。
岸恵美子. 高齢者の孤独・孤立(死)について考える セルフ・ネグレクトと高齢者(認知症を含む)の孤立. 日本認知症ケア学会誌 2023; 22 (3): 515-523
Marín-García Elena, RN, Martínez-Angulo Pablo, RN, Ms. C, PhD
Sociocultural interactions and self-perception of health in older adults from an active participation centre: A qualitative study
Active Participation Centreに参加している高齢者の社会文化的相互作用と健康の自己認識:質的研究
Geriatric Nursing 57(2024) 73 -79
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.04.001
健康的に年を重ねることを推進していくことは世界的な優先課題である。本研究は、スペインのアンダルシア自治州南部にあるActive Participation Centre(APC)という高齢者の交流や社会文化的活動を促進する施設で実施した。APCは、心理社会的・感情的な健康を育み、高齢者の充実した活動的なライフスタイルに貢献する鍵となる可能性がある。本研究の目的は、APCの地域社会文化活動に参加している高齢者の健康状態の自己認識、社会文化的活動への参加に対する認識、社会文化的活動への参加時に現れる感情、嗜好について探求することである。解釈学的研究方法に沿って、9人の高齢者へインタビューを実施し、データ分析には解釈学的考察を用いた。
分析の結果、APCが心理社会的・精神的な状況に対する治療的空間として重要であること、感情的なウェルビーイングにプラスの影響を与えること、社会的なつながりを育むこと、個人の好みに応じた多様な活動を提供していることが明らかになった。本研究結果は、社会文化的活動への参加と健康の自己認識との間の相互作用を強調し、APCに通う高齢者のウェルビーイングを促進するための総合的アプローチの必要性を強調している。
スペインにはActive Participation Centre(APC)が多く設立されており、高齢者がよく利用されているようです。社会活動、文化活動、レクリエーションやスポーツ、音楽、工芸、観光などのほか法律相談やパソコン教室などのサービスを提供しているAPCもあり、そういった地域社会での活動が高齢者のウェルビーイングに良い影響をもたらすことが明らかにされています。APC参加者が好む活動についても明らかにされていますので、より詳しい効果や高齢者の活動嗜好、その理由などについてご関心のある方はぜひ論文にアクセスしてください。
Canan Sari, Leyla Adiguzel, Birsel Canan Demirbag
An assessment of informal caregivers’ knowledge levels on daily and emergency care practices for the elderly: A descriptive cross-sectional study
高齢者の日常的なケアと緊急時ケアの実践に関するインフォーマルな介護者の知識レベルの評価:記述的横断研究
Geriatric Nursing 57(2024) 163 -168
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.04.012
本研究の目的は、インフォーマルな介護者の日常的なケアと緊急時の知識レベル、およびインフォーマルな介護者の社会人口統計学的特性が知識レベルに及ぼす影響について明らかにすることである。 この記述的横断研究は、2021年11月1日から2022年6月30日の間に、北東トルコの農村部に住む83人(79.8%)のインフォーマルな介護者を対象に実施した。 データの収集にはバーセルインデックス、社会人口統計学的調査票、高齢者ケア及び緊急時ケアを必要とする状況に関する情報調査票を用いた。 介護者の高齢者ケアに関する知識レベル、高齢者ケアと緊急事態の経験、教育レベル、高齢者ケアに関するさらなる情報が必要であるという認識には、統計学的に有意な差が認められた(p<0.05)。 インフォーマルな介護者には看護師による訓練が必要である。
この研究はトルコの家父長制が残る農村部において実施されました。家族であるインフォーマルな介護者の高齢者に対する自宅でのターミナルケアや緊急時の対応に関する知識レベルについて評価し、地方で在宅介護をしている介護者への有効なプログラムの開発につなげるために実施されたものです。世界的に家族が高齢者を介護するという状況である中、在宅介護における知識を持つことの重要性や社会システムとして要介護高齢者をどう包摂していくのかが課題となっています。日本、韓国、ドイツなどの先進国では介護が制度化されている一方で、トルコなどの家父長制が残る国々では家族が介護する文化規範があるようで、高齢者の緊急事態に対応するために、看護師による家族介護者の知識レベルを向上する研修が必要とされています。各国の社会規範に適合する形のシステムを開発する必要性が示唆される論文だと思います。
Mostafa Shaban, Marwa Mamdouh Shaban, Mohammed Elsayed Zaky, Majed Awad Alanazic, Osama Mohamed Elsayed Ramadan, Ebtesam Mo"awad Elsayed Ebied, Nagwa Ibrahim Abbas Ghoneim, Sayed Ibrahim Ali
Divine resilience: Unveiling the impact of religious coping mechanisms on pain endurance in arab older adults battling chronic pain
信仰心による回復力:慢性疼痛を抱えているアラブ系高齢者の宗教的対処メカニズムが疼痛耐性に与える影響を明らかにする
Geriatric Nursing 57(2024) 199-207
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.04.022
慢性疼痛は、多くの高齢者の生活の質を低下させる。痛みからの回復力を高めるための効果的な対処法を明らかにすることは高齢化が進む中で必須である。 高齢者は痛みに耐えるために宗教的信仰やスピリチュアルな実践を用いることが一般的であるが、それらが痛みの許容範囲にどれだけ影響しているかについて調査した研究はほとんどない。 この横断研究では、慢性疼痛を抱えるアラブ人高齢者200人に対し、肯定的/否定的な宗教対処スタイルと疼痛耐性との関係を調査した。 調査項目は、アラブ宗教対処尺度簡易版、疼痛評価尺度、WHOのQOL簡易版及び属性・病歴であった。分析の結果、肯定的な宗教的再評価と積極的なスピリチュアル・コーピングは、自己報告による疼痛耐性の高さと有意な正の関連を示した(p<0.05)。 否定的な宗教的対処スタイルは、疼痛耐性と有意な関連を示さなかった。共変量をコントロールした重回帰分析を行った結果、疼痛回復力を改善するうえで、再評価とスピリチュアルな実践が独自の効果を持つことが確認された。 宗教的対処による多次元的な神経認知的、感情的、心理社会的苦痛の緩和を強調する観点と一致する結果が得られた。 この結果は、高齢者の疼痛管理のための生物心理社会的パラダイムに、信仰に基づく積極的な資源を統合することを強調するものである。 多様な高齢者グループに対する宗教的対処効果に影響を及ぼす因果関係や文脈的要因を調査するための追加研究が必要である。
この研究は、エジプトで行われた研究であり、慢性疼痛を抱えたアラブ系高齢者の宗教的対処メカニズムが慢性疼痛耐性を向上させることを明らかにしたものです。 慢性疼痛を抱える高齢者に対して信仰やスピリチュアルな実践が疼痛緩和に有効であるという結果は今後、定住外国人が増えると予想されている日本において看護を実践していくうえで、そういった慢性疼痛への対処が有効であるということを知ることも大切なことと思います。
Ashley Leak Bryant PhD RN FAAN, Rachel Hirschey PhD RN FAAN, Courtney E. Caiola PhD MPH RN, Ya-Ning
Chan PhD RN, Youngmin Cho MSN RN, Brenda L. Plassman PhD, Bei Wu PhD FAAN, Ruth A. Anderson PhD RN FAAN,
Donald E. Bailey Jr. PhD RN FAAN (2024)
Care partners experience of an oral health intervention for individuals with mild cognitive impairment
and mild dementia using behavior change technique: A qualitative study
家族介護者における軽度認知機能障害もしくは軽度認知症者への行動変容テクニックを用いた口腔ケアの経験:質的研究
Geriatr Nurs. 2024 March–April; 56:40-45
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.12.021
本研究は、軽度認知機能障害者(MCI)もしくは軽度認知症者(MD)を介護する家族介護者25名(MCI介護者15名、MD介護者10名)を対象に、行動変容テクニックを用いた口腔ケアのコーチングセッションを3か月間実施し、セッション中の介護者とのやりとりを質的に分析したものである。プログラム内容はMCI用とMD用に分けられた。分析の結果、MCI介護者、MD介護者ともに、被介護者へ口腔ケアを促すための適切なタイミングや環境を見計らっていた。また、どのように行動を促すかについて被介護者へ助言したり、その都度目標設定を変更しながら少しずつ行動変容を促したりしていた。さらに、行動に影響する要因の分析や困難を乗り越えるための方法を選択していた。MCI介護者は被介護者が口腔ケアを実施できる機会をうかがっていた一方で、MD介護者は口腔ケアの専門家から助言を得ていた。今回の介入は、介護者が口腔ケアを促すためにMCIやMDの行動変容のメカニズムを解明する一助となる。
この研究は、行動変容テクニックを用いた介入によって軽度認知機能障害者もしくは軽度認知症者が口腔ケアを実施できるように介護者はどのように行動変容を促せばよいかについて、質的に明らかにした研究です。具体的なプログラム内容については本文中に紹介されていますので、ご関心のある方は是非ご一読ください。
Rebecka Maria Norman, Ingeborg Strømseng Sjetne (2024)
Associations between nursing home care environment and unfinished nursing care explored. Secondary
analysis of cross-sectional data
高齢者ナーシングホームにおけるケア環境と未完了のケアとの関連:横断研究データの二次解析
Geriatr Nurs. 2024 March–April; 56: 55-63.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.12.023
本研究は、高齢者ナーシングホームにおけるケア環境と未完了の看護ケアとの関連について明らかにすることを目的とした。参加者はノルウェーのナーシングホーム66カ所で勤務する介護職者931名であり、有効回答率は37%であった。ケア環境に関しては、対人関係におけるリーダーシップ、専門的能力の開発、資源、専門職としてのリーダーシップ、意見を求め承認を得ること、利用者や近親者との関係、多職種連携、言語的コミュニケーションエラー、不安感の9項目について5件法(never”=1~“always”=5)で測定した。未完了のケアに関しては、ルーティーンケア、利用者から要求があったときの対応、記録業務、社会心理的ケアの4項目について、時間が確保できないことや仕事量が多いことが理由で過去7日間の勤務の中でどのくらいケアが行えなかったかを4件法(“never’’=1~‘‘often’=4)で測定した。分析の結果、専門的能力の開発はルーティーンケア、記録業務、社会心理的ケアと関連があった。資源や利用者や近親者との関係、多職種連携は全ての未完了ケア項目と関連があった。言語的コミュニケーションエラーは利用者から要求があったときの対応、記録業務、社会心理的ケアと関連があった。不安感はルーティーンケア、利用者から要求があったときの対応、記録業務と関連があった。以上より、良いケア環境で勤務する介護者は未完了のケア頻度が少ないことが示唆された。今回の研究で得られた知見は、高齢者ナーシングホームにおいて利用者に良い影響を与える人的資源をマネジメントするための一助となる。
この研究は高齢者ナーシングホームにおけるケア環境と未完了の看護ケアとの関連についてノルウェーの研究者がまとめたもので、ケアの質を向上させるためにどのような環境づくりが有用であるかを検討するのに有用な論文です。未完了の看護ケア(Unfinished, rationed, missed, or otherwise undone nursing care)とは2001年にAikenらによって導入された概念で、スキルや時間等のリソース不足によって必要な看護ケアが終了しなかった状態のことを指します(Aiken LH et al, 2001)。未完了の看護ケアに関する論文はVol.4でもご紹介していますので、ご関心のある方はそちらもご覧ください。
Claire Wang MHSc, Mengchi Li PhD, Sarah Szanton PhD, Susan Courtney PhD, Alex Pantelyat MD, Qiwei Li
PhD, Jing Huang PhDc, Junxin Li PhD (2024)
A qualitative exploration of 40 Hz sound and music for older adults with mild cognitive impairment
軽度認知機能障害のある高齢者への40Hz音楽の質的効果
Geriatr Nurs, 2024 March–April: 56: 259-269.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.02.005
本研究では、軽度認知機能障害のある高齢者を対象に40Hzの音や曲の効果について検証することを目的に、ランダム化クロスオーバー試験を実施した。参加者はMoCAスコア18-25点もしくはFAQスコア6点未満の50歳以上の地域在住者25名であった。介入開始前に参加者をランダムに3グループに分け、3種類の異なる音楽をそれぞれ1回1時間、週5回、計4週間ずつ聴いてもらった。3種類の異なる音楽については、Condition A: 曲リストの中から参加者自身が選曲した音楽、Condition B: 40Hz音(*バズノイズやテレビの砂嵐音、セミの鳴き声が近い)、Condition C: 40Hzにカスタムした曲リストの中から参加者自身が選曲した音楽とした。ウォッシュアウト期間として2週間設けた。効果を評価するために、各介入後に曲を聴いた印象や心地よさ等に関して半構造化インタビューを実施した。その結果、自身で選曲した音楽を聴くことで記憶力の向上や精神的安寧を感じた参加者がいた一方で、40Hz音は不快に感じる参加者もいた。40Hzにカスタムした曲は、参加者の体感を向上させ、40Hz音のマイナス面を緩和することでバランスをとっていた。また、介入効果は、個人の音楽の嗜好や音楽を聴く習慣、ネットワーク環境に影響されることも明らかとなった。本研究結果から、軽度認知機能障害のある高齢者にとって40Hz音楽は有用である可能性が示唆された。
この研究は、アメリカで行われた研究であり、軽度認知機能障害者のある高齢者に対して40Hz音楽は記憶力向上や精神的安寧に有効であることが示されています。他の研究でも、40Hz音は認知症の原因といわれている脳内のアミロイドβタンパク質の有意な減少が確認されたといった報告があり(Iaccarino HF et al, 2016)、音楽療法が認知機能障害に有効であることのエビデンスを蓄積する動きも進んでいます。日本においてもガンマ派サウンドの認知機能への影響について近年注目が高まっており、今後効果が検証されていくことが期待されています。
Dukyoo Jung PhD RN, Hyesoon Lee PhD RN, Eunju Choi MSN, Jisung Park MSN RN, Leeho Yoo MSN RN (2024)
Description of the mealtime of older adults with dementia in a long-term care facility: A video
analysis
認知症高齢者の食事時間の観察記録:動画分析
Geriatr Nurs. 2023 January–February; 55:176--182.
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.10.029
高齢者施設における認知症高齢者の食事時間の構造(高齢者の行動や介護者とのやり取り)を分析した。2つの高齢者施設において、10人の利用者と24人の施設スタッフによる計41組の動画による観察を行った。平均食事時間は12.21 ± 5.16分であり、利用者の口にスプーンが入ってから出てくるまでの1回の摂取時間は0.21 ± 0.21分、口の中に食物が入り次の食物が口の中に入るまでの摂食の間隔の中央値は0.17分であった。介護者による言語的な支援の平均時間は1.41 ± 1.31分であり、言語的支援の頻度は、平均23.92 ± 15.50 回と少なかった。食事の間、利用者は平均5.00 ± 4.07回、適切に食事をとることができなかった。今回の動画観察は、高齢者施設の利用者に質の高い食事を提供するために、患者中心の理念に沿ったスタッフ向けの教育を組み込んだ、十分な人員配置による食事介助プログラムを実施する必要性を示した。
この研究では、食事時間の構成要素を明らかにするために、先行研究から摂取回数、1回の摂取時間、食事間隔、食事中のスタッフの不在、食事の準備、食事の種類、食事方法(入居者が行う、スタッフが支援する)、スタッフの行動(言葉による介助、触れ合い、言葉による介助と触れ合い)、スタッフの存在(スタッフの出勤、退勤、交代)、入居者の食事困難(咳嗽、口の中にスプーン入れるときにスプーンを落としてしまった、拒否、スプーンを噛む)といったコードを設けています。認知症の方の行動を観察する上で、その方法論を示唆してくれる内容と思われました。動画を用いた対象者に対する細かな行動の観察が更に質の高いケアの開発につながるものと考えられました。
Yu Peng MSN, Yang Liu MSN, Zhongxian Guo MSN, Yuhan Zhang PhD, Liyan Sha PhD,Xiaorun Wang MSN, Yang He
PhD (2023)
Doll therapy for improving behavior, psychology and cognition among older nursing home residents with
dementia: A systematic review and meta-analysis
認知症のあるナーシングホーム入居者における行動、心理、認知の改善のためのドールセラピー:システマティックレビューとメタ分析
Geriatr Nurs. 2024 January–February; 55: 119-129.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.10.025
目的:認知症のあるナーシングホーム利用者における行動、心理、認知に対するドールセラピー(DT)の効果を探索することである。方法:システマティックレビューとメタ分析を行った。介入の特徴が効果量に影響したかどうかを明らかにするためにサブグループ解析を行った。結果:10の論文が包含基準に合致しており、それらを質的および量的に統合した。全体の方法論的な質は比較的高いものであった。DTにより、興奮(SMD[標準化した平均値の差:Standardized Mean difference]=-0.94, P<0.001)、無気力、焦燥、徘徊といったすべての行動と心理状態(楽しみ、不安、抑うつ)は有意に改善していた(SMD=-0.42, P=0.01)。しかし、認知においては有意な差はみられなかた。サブグループ解析によって、共感人形(エンパシー・ドール)の使用や介護者と一緒にコーディネーションを行うといったDTのプロセスを特徴として含む介入のほうが、すべての行動の改善に、より有益であることが明らかとなった。結語:DTは認知症のある高齢ナーシングホーム利用者の行動的、心理学的障害を有意に軽減していた。特に、共感人形の導入や介護者との調和は最も適切で効果的な選択肢と思われる。
本研究は、ドールセラピーについて中国の研究者がまとめたもので、PRISMAガイドラインに則って行われた研究です。2006年から2022年の間に出版されたスイス、イタリア、トルコ、オーストラリア、韓国、イスラエル、イギリスで行われた10本の論文がメタ分析に使用されました。行動のアウトカムとして興奮、無気力、焦燥、徘徊を、心理学的アウトカムとして喜び、不安、抑うつが使用されていることを明らかにしています。これらのアウトカムの測定にはNPI、CMAIといった尺度が用いられていることや認知能力のアウトカムにはSPMSQやMMSEが使用されていることが把握できます。この研究では、使用された人形の種類による効果も検証しており、子供を抱いたり、見つめたり、触れたりとする感覚を蘇らせる共感人形(エンパシー・ドール)のほうが、微笑んだり目を開け閉めする本物そっくりの赤ちゃん人形よりも行動の効果において優れていたことを明らかにしています。なお、メタ分析の統計解析についてはhttps://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpm/61/8/61_61.8_694/_pdfで解説されています。
De La Vega-Cordero Edna Mayela MSN, López-Teros Miriam PhD, García-González Ana Isabel MSc,
Rosas-Carrasco Oscar MD, Castillo-Aragon Alejandra MSN (2023)
Effectiveness of an online multicomponent physical exercise intervention on the physical performance of
community-dwelling older adults: A randomized controlled trial
地域在住高齢者の身体機能に対するオンライン複合的身体運動介入の効果:ランダム化比較試験
Geriatr Nurs, 2023 November-December: 54: 83-93.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.08.018
この研究の目的は、高齢者の身体機能に対して、オンラインによる様々な運動を組み合わせた介入(MPE)の効果を評価することである。MPE群(46名)と対照群(42名)においてランダム化比較試験を実施した。MPE群では持久力、筋力、バランス、柔軟性のエクササイズを週3日以上行い、対照群では教育セッションだけを実施した。身体機能を、ベースラインと3ヵ月後にSPPB(身体機能バッテリー短縮版:Short Physical Performance Battery)によって評価した。MPE群では対照群と比較して、SPPBスケールで平均0.81点(95%信頼区間0.23-1.40;p=0.000)、タンデムバランステストで1.26秒(95%信頼区間 0.21-2.31;p=0.019)の増加がみられた。これらの結果から、オンラインMPE介入は地域在住高齢者の身体機能を強化するのに有効といえ、高齢者における機能依存性を軽減するのに役立つかもしれない。
オンラインによるエクササイズの効果をみた研究です。MPE群では、身体機能バッテリー短縮版(Short Physical Performance Battery:SPPB)を用いて、対象者をさらに3つの活動レベル(フレイル、プレフレイル、活発)に分類し、そのレベルごとに異なる運動プログラムを提供しています。先般の新型コロナウイルス感染症の蔓延期では様々な介護サービスが制限され、高齢者の筋力が低下したといわれています(https://doi.org/10.3143/geriatrics.59.491)。オンラインによる介入の拡充は、今後も襲来の可能性のある新型感染症蔓延期の生活不活発病予防につながるとともに、健康寿命を延伸させる効果的な方法と思われます。
Michelle Leanne Oppert PhD, Melissa Ngo BA Psych, Gun A. Lee PhD, Mark Billinghurst PhD, Siobhan Banks
PhD, Laura Tolson BA Law (2023)
Older adults’ experiences of social isolation and loneliness: Can virtual touring increase social
connectedness? A pilot study
高齢者の社会的孤立と孤独の経験:仮想ツアーは社会的つながりを増やすことができるか? パイロットスタディ
Geriatr Nurs. 2023 September–October; 53: 270-279.
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.08.001
本パイロットスタディは,在宅生活を送る高齢者がどのように社会的孤立や孤独を経験しているかを理解し,仮想ツアーのデジタル技術が社会的つながりを増加させるかどうかを探索することを目的とした(N=10). インタビュー,経験,フィードバックの結果を重ね合わせて検討することを通して,この研究は,高齢者の幸福に関する知識に貢献し,特に仮想観光などのデジタル技術がこのプロセスにどのように役立つかを示している. 当該研究の参加者は,中程度の孤独感を抱えていたものの,より多くのデジタル技術を受け入れる意欲があり,それが社会的つながりや生活の管理を促進するのにどれほど有益かを共有していた. 仮想ツアーの体験に参加することは,喜びや郷愁,将来の利用に興味を示すなど,よく受け入れられていた.しかしながら,社会的つながりの増加への貢献が明確にされ,さらなる調査を実施していく必要がある. いくつかの将来の研究および教育の方向が提供されている.
この研究では,オーストラリアで在宅生活を送る高齢者が,社会的孤立や孤独をどのように感じているのか,デジタル技術の使用についてどのように考えているのかについて,インタビューで回答した後に, バーチャルリアリティ(virtual reality)ヘッドセットあるいはタブレットを用いて,約30分間自身の思い出や関心のある場所や風景の映像を見る仮想ツアーに2回参加しました. 仮想ツアーとは,VRを使った観光の疑似体験のことです.仮想ツアーに参加後,再度同様の内容のインタビューを受けた結果がまとめられています. 1回目は,プライバシーの保護について心配しテクノロジーの利用に難色を示していた高齢者も,2回目の体験後には,実際のツアーと同じであるとは感じられないものの,社会的交流を図るのに有効である, 他者と一緒にいるように感じる,もう一度ぜひ利用したといった肯定的な考え方に変わっていました.また,どの高齢者においても家族や友人といつでも連絡が取れるといったテクノロジーの利点を感じており, 心配事がありながらも,外出することなく他者と交流ができる点に賛同する高齢者もいました.ツアー内容の構成やプライバシーを考慮する必要はありますが, 回想法的な関わりのなかでデジタル技術を活用することでよりよい高齢者ケアに繋がる可能性があると思いました.
Ryo Miyazaki PhD, Takafumi Abe PhD, Naoki Sakane MD, PhD, Hitoshi Ando MD, PhD, ShozoYanoMD, PhD, Kenta
Okuyama MPH, Minoru Isomura, Masayuki Yamasaki, Toru Nabika MD, PhD (2023)
Associations between dairy consumption and the physical function in Japanese community-dwelling older
adults: The Shimane CoHRE study
日本の地域在住の高齢者における乳製品摂取と身体機能との関連:島根CoHRE研究
Geriatr Nurs. 2023 September–October; 53: 19-24.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.06.014
本研究の目的は,地域在住の高齢者の間での乳製品摂取と身体機能の関連における性差を調査することであった.本研究には656人の高齢者(平均年齢75.6 ± 6.4歳)が参加し, 乳製品摂取(5項目のLikertスコア)と身体機能(歩行速度,握力,および骨格筋量)を測定した.共変量を調整した多重線形回帰分析により, 乳製品摂取と身体機能の指標との線形および二次の関連を調査した.結果として,女性では,共変量を調整した後でも,乳製品摂取量が多いほど,握力が向上し, 歩行速度が速くなっており,乳製品摂取量と,握力及び歩行速度は有意に線形に関連していた(いずれも p<0.05).一方,男性においては,乳製品摂取は身体機能の指標とは関連していなかった. 乳製品摂取はいずれの性別でも筋量とも関連していなかった.乳製品摂取の増加は,高齢の女性において優れた身体機能と関連していた.
この研究は,日本の島根県の地域在住高齢者を対象として,島根大学に設置されている地域包括ケア教育センターにおいて実施されたものです. 日常における乳製品の摂取量は,厚生労働省と農林水産省により推奨されている食事バランスガイドに基づいて,牛乳やヨーグルト,スライスチーズに乳製品摂取量を換算し, 1)とらない,2)週に1~2本,3)1日に半分,4)1日に1本,5)1日に2本以上,の該当する量をアンケート用紙を用いて参加者に選択してもらっています. 女性において,年齢や高血圧,糖尿病の既往などの共変量を調整し分析した結果,乳製品摂取量が多いほど,握力や歩行速度が向上していた一方,男性においては, 乳製品摂取量は身体機能の指標とは無関係という,興味深い結果が得られていました.脂質を含んだ乳製品を区別したり,摂取エネルギー量には言及されていないため, どの乳製品がより身体機能の向上に寄与しているのかについては更なる調査が必要かもしれませんが,日常生活において乳製品摂取の大切さを意識させられる論文でした.
Jiurui Wang MSN, Shengjia Xu MD, Jian Liu MSN, Zeping Yan MSN, Simeng Zhang MSN, Mengqi Liu MSN, Xiaoli
Wang MSN, Zhiwei Wang MSN, Qian Liang MSN, Xiaorong Luan PhD (2023)
The mediating effects of social support and depressive symptoms on activities of daily living and social
frailty in older patients with chronic heart failure
慢性心不全高齢患者における日常生活活動と社会的フレイル対する社会的支援と抑うつ症状の媒介効果
Geriatr Nurs. 2023 September–October; 53: 301-306.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.08.003
本研究の目的は,慢性心不全(CHF)を有する高齢患者における社会的フレイル(SF)の水準を調査し,日常生活活動とSFの間における社会的支援と抑うつ症状の媒介効果を検証することであった. 便宜的な抽出方法を用いて,2021年11月から2022年5月までの期間に中国で205名のCHF高齢患者へ自記式質問紙を用いて日常生活活動,社会的支援,抑うつ症状,およびSFに関するデータを収集した. 構造方程式モデリングを用いてデータを分析した.分析の結果,最終モデルは良好な適合性を示し,CHFを有する高齢患者における日常生活活動はSFと直接関連していた. 多重媒介分析の結果,日常生活活動とSFの関係は,社会的支援(effect:-0.010,95%CI:[-0.021,-0.003])および抑うつ症状(効果:-0.011,95%信頼区間[-0.019,-0.005])によって個別に媒介され, 連鎖的にも媒介されていた(効果:-0.007,95%信頼区間[-0.012,-0.003]).日常生活活動とSFの関係において社会的支援と抑うつ症状は多重媒介変数である.日常生活活動は, 社会的支援と抑うつ症状を介して患者のSFを改善することができる可能性がある.
社会的フレイル(SF)とは,基本的な社会的ニーズを満たすために重要な1つ以上の資源の喪失により脆弱性が高まった状態を示し,個人の生活の質を評価する重要な指標とされています. 慢性腎不全を有する高齢者のうち66.5%の方がSFの状態であり,SFは,QOLの低下や認知機能障害,再入院のリスク要因であると報告されています. 加齢に伴い,ADLを維持することが困難になっていく状況のなか,フォーマル,インフォーマルな社会的支援を充実させることが,抑うつ症状やSFの低下に繋がると結論づけられていました. 今後,日常生活活動を向上させる介入が社会的フレイルの予防につながることを示す具体的な介入研究が実施されることを期待しています.
Hsiao-Ying Wu PhD, Ai-Fu Chiou PhD (2023)
The effects of social media intergenerational program on depressive symptoms, intergenerational
relationships, social support, and well-being in older adults: A quasi-experimental research
高齢者のうつ症状,世代間関係,ソーシャルサポート,ウェルビーイングに対するソーシャルメディアによる世代間交流プログラムの効果:準実験研究
Geriatr Nurs. 2023 July–August; 52: 31-39.
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.05.008
本研究の目的は,高齢者の抑うつ症状,世代間関係,ソーシャルサポート及びウェルビーイングに対する,ソーシャルメディアによる世代間交流プログラムの効果を検証することである.本研究の参加者は,介入群50名,対照群50名,計100名の高齢者であった.介入群の高齢者は,5週間のソーシャルメディアによる世代間交流プログラムを実施し,対照群の高齢者は,通常の日常生活を送った.ベースライン,介入実施から5週間後および9週間後に質問紙によりデータを収集した.本研究では,高齢者の約35%が軽度から重度の抑うつ症状を有していた.研究の結果,介入群は対照群と比較して介入後5週目と9週目に,抑うつ症状,世代間関係,ソーシャルサポート,ウェルビーイングすべてにおいて有意な改善を示した.ソーシャルメディアを活用した世代間交流は,高齢者の抑うつ症状の改善,世代間関係の促進,ウェルビーイングの向上ために推奨される.
この研究は台湾で実施された準実験研究です.ソーシャルメディアを用いた世代間交流プログラムは,3時間30分のセッションを1週間に1回,5週間継続して実施されました.セッションの内容は,LINEやFacebook,オンラインのアルバムやビデオファイルの使い方についての学習,世代間でのゲームの実施,LINEグループによる世代間の交流などでした.このプログラムは,高齢者へソーシャルメディアを学習する機会を提供し,そしてそれを活用しながら世代間交流を図るという内容で,高齢者の嗜好に考慮する必要はありますが,現代社会に即したオリジナリティのあるプログラムではないかと考えられました.
Mary Dioise Ramos PhD, RN (2023)
Exploring the relationship between planned behavior and self-determination theory on health-seeking
behavior among older adults with hearing impairment
聴覚障害を有する高齢者の健康追求行動における計画行動理論と自己決定理論の関係の探求
Geriatr Nurs. 2023 July-August; 52: 1-7.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.05.001
本研究の目的は,聴覚障害を有する高齢者の健康追求行動を予測するうえでの計画行動と自己決定理論の関係を検討することであった.60歳以上の対象者103名に自記式質問紙を用いた調査を実施した.質問項目は,健康追求志向,知識能力,関連性,態度,スティグマ,自覚している能力および自律性に関する変数であった.研究の結果,計画行動と自己決定理論モデルの両方が,聴覚障害を有する高齢者の健康追求志向と行動を有意に予測することが示された.より高い知識能力,関連性,肯定的態度,自覚している能力と自律性は,健康追求志向と行動の有意な予測因子であることが明らかになった.本研究の結果は,知識能力,関連性,肯定的態度,自覚している能力と自律性を高めることを目的とした介入が,聴覚障害を有する高齢者の聴覚に関連した健康を追求する行動の促進に有効である可能性を示唆している.今後は,これらの変数が健康追求行動の予測に果たす役割や,この集団における聴覚に関する健康増進のための介入の効果について更なる探求が必要であろう.本研究から得られた知見は,臨床家およびヘルスケアの専門家がこの集団をターゲットにした介入を立案する際に役立つであろう.
この研究は,計画行動理論(Theory of Planned Behavior: TPB)と自己決定理論(Self-Determination Theory: SDT)による概念モデルが,聴覚障害を有する高齢者の健康追求行動を予測するかについて調査したもので,アメリカで実施されました.聴覚障害を有する高齢者は年齢と共に徐々に増加し,75歳以上では約50%の方が聴覚障害を有していると言われています(本文より).聴覚障害は認知機能やQOL等に影響するとされ,近年研究が進んでいます.論文には計画行動理論,自己決定理論による概念枠組みの図が掲載されているので,そちらを確認すると調査の概観が視覚的に把握できると思います.
Takazumi Ono Msc, Misato Nihei PhD, Tomoki Abiru MSc, Kaname Higashibaba MSc, Tomohiro Kubota PhD
(2023)
Association between meaningful activities at home and subjective well-being in older adults with
long-term care needs: A cross-sectional study
要支援・要介護高齢者における自宅での意味のある活動と主観的ウェルビーイングの関連:横断研究
Geriatr Nurs. 2023 July-August; 52: 121-126.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.05.013
本研究の目的は,介護保険で要支援・要介護の認定を受けた高齢者の外出の嗜好性によって,自宅での意味のある活動への参加が主観的ウェルビーイングと関連するかどうかを検討することであった.日本の介護施設に自記式質問紙を配布し,線形混合効果モデル回帰分析によりデータの解析を行った.従属変数は主観的ウェルビーイングとし,独立変数は自宅での意味のある活動の数,外出嗜好性,およびそれらの交互作用とした.217名のデータを分析した結果,自宅での意味のある活動の数(B=0.43;95%CI:0.17, 0.70)と,自宅での意味のある活動の数と外出嗜好性との交互作用(B=-0.43;95%CI:-0.79, -0.08)の両方が主観的ウェルビーイングと関連していることが明らかとなった.これらの結果は,外出を好まない高齢者が自宅での意味のある活動に参加することの重要性を示唆している.我々は,高齢者がそれぞれの嗜好に合った活動に参加するよう奨励すべきであろう.
この論文は,日本で実施された調査研究です.主観的ウェルビーイングの測定には,改訂版Philadelphia Geriatric Center Morale Scale(PGCMS)という尺度が使用されています.自宅での意味のある活動については,活動のリスト(読書,音楽鑑賞,自宅でのスポーツ観戦など)から対象者にとって意味のある活動と思うものをチェックしてもらっています.外出の嗜好性については,「私は家にいるのが好きだ」と「私は家にいるより外出する方が好きだ」の2つの質問について4段階のリッカート尺度を用いて回答してもらっています.自宅での意味のある活動の数と外出を好まない高齢者のウェルビーイングが関連していることから,著者は外出を好まない要支援・要介護高齢者には,必要以上に外出を勧めるべきではないと論じています.また,外出しないことでADLの低下などが危惧されますが,在宅での身体活動や社会的交流にICT(情報通信技術)などを活用することでその点を補う可能性も述べられていました.
Pauliina Hackman, Marja Hult, Arja Häggman-Laitila
Unfinished nursing care in nursing homes
ナーシングホームにおける未完了(Unfinished)の看護ケア
Geriatr Nurs. 2023 May–June;51:33-39.
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.02.010
本研究は,ナーシングホームにおける未完了の看護ケア活動について記述することを目的とした.この研究は横断的調査として実施され,BERNCA-NH-instrumentと1つの自由形式の質問を用いていた.研究参加者は,ナーシングホームのケアワーカー486名であった.研究の結果,20の看護ケア活動のうち平均して7.3が未完了であった.未完了の活動の多くは,入居者の社会的ケアとケアの記録に関するものであった.女性であること,年齢,専門職としての経験,が未完了のケアの発生しやすさを増加させていた.未完了のケアは,リソースの不足,入居者の特性,予期せぬ状況,看護ケア以外の活動,ケアの組織化と指揮(organizing and leading)における課題などの結果であった.本研究の結果から,ナーシングホームでは必要なケア活動のすべてが行われているわけではないことが示唆された.未完了の看護活動は,入居者のQOLに影響を与え,看護ケアの認知度を低下させる可能性がある.ナーシングホームのリーダーは,未完了のケアを減らすために重要な役割を担っている.今後の研究では,未完了の看護ケアを減らし,予防する方法について取り組むべきである.
この研究はフィンランドのナーシングホームにおける未完了の看護ケアについて明らかにした調査研究です.未完了の看護ケアはunfinished nursing care,missed care,implicit rationingなどと呼ばれ,保健医療の質評価の研究で2001年に導入された概念だそうです.未完了の看護ケアに関する研究は急性期病院においてより多く行われており,高齢者ケアの領域ではそれほど多くないとのことでした. 著者らは,BERNCA-NH-instrumentという20項目のケアの未完了について評価できる評価尺度と,未完了のケアの理由を聞く自由形式の質問により調査を行っています.ケアの未完了の理由としてもっとも指摘されていたのはリソースの不足であり,その状況は多くの国の高齢者ケアの現場で共通するのではないかと考えられました.
Yuxin Shi, Yurong Yang, Li Wang, Jun Zang
The lived experiences of loneliness of older adults with chronic conditions aging at home: A qualitative
systematic review and meta-aggregation
慢性疾患を持つ在宅で生活する高齢者の孤独の経験:質的研究のシステマティックレビューとメタ統合
Geriatr Nurs. 2023 May-Jun;51:274-285.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.03.025
本研究の目的は,慢性疾患を抱えながら在宅で生活する高齢者の孤独の経験と認識について,入手可能な最善のエビデンスを統合することであった.Web of Science,PubMed,Embase,CINAHLおよびその他のデータベースを検索し,慢性疾患を抱えながら在宅で生活する高齢者の孤独の体験に関する質的研究を収集した.レビューに含まれた研究は,2名の研究者により独立してThe JBI Critical Appraisal Checklist for Qualitative Researchを用いて評価された.6つの研究をレビューした結果,次のような4つのテーマにまとめられた.(a)孤独による否定的な感情と満たされない社会的ニーズ,(b)慢性疾患の症状が孤独に及ぼす影響についての自己認識,(c)孤独に対処するための自己戦略,(d)孤独を緩和するソーシャルサポート.在宅で生活する高齢者は,孤独による否定的な感情や満たされない社会的ニーズにより苦しんでおり,それらは,慢性疾患の症状に影響されていた.また,在宅で生活する高齢者は孤独感に対処するための自己戦略や社会的支援を用いていた.
高齢者の孤独についての質的研究を中国の看護学の研究者たちがまとめた内容です.レビューに含まれた6つの研究は2014年から2020年の間に,アメリカ,ノルウェイ,ニュージーランド,オランダから出版された論文でした.4つのテーマは包括的に見え具体的な内容が理解しにくいと思いますが,本文には孤独の影響,慢性疾患の症状と孤独の関係,孤独に対処するための戦略やソーシャルサポートなどがより詳しく記述されています.
Eltaybani S, Kawase K, Kato R, Inagaki A, Li CC, Shinohara M, Igarashi A, Sakka M, Sumikawa Y, Fukui C,
Yamamoto-Mitani N.
Effectiveness of home visit nursing on improving mortality, hospitalization, institutionalization,
satisfaction, and quality of life among older people: Umbrella review.
訪問看護の死亡率,入院,施設入所,満足度,QOLに対する効果:アンブレラレビュー
Geriatr Nurs. 2023 May-Jun;51:330-345.
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2023.03.018
このアンブレラレビューは,JBIの方法論に従い,60歳以上の高齢者に対する長期的な訪問看護の,死亡率,入院率,施設入所率,患者満足度,QOLの改善の効果に関するシステマティックレビューを統合したものである.8つの文献データベースが検索され,22の関連する個別の試験(n = 10,765人)を含む10件のレビューがこのアンブレラレビューに組み入れられた.死亡率はもっとも多く検討されたアウトカムであり,満足度はもっとも検討されていないアウトカムだった(それぞれ9件,あるいは1件のレビュー).訪問看護は,入院の回数を減少させる好ましい効果を示していたが(2つの試験[参加者1152人]で好ましい効果が示され, 3つの試験[参加者788人]で効果は認められていなかった),他のアウトカムでは効果は認められていなかった.高齢者に対する長期的な訪問看護の有効性に関するエビデンスは乏しい.今後の研究は,介入がどのようなメカニズムにより効果があると期待されるかを説明する理論的基盤に基づいて行う必要がある.
日本の研究チームによって厚生労働科学研究費によっておこなわれた,訪問看護の効果に関するアンブレラレビュー(システマティックレビューのレビュー)です.Open Science Frameworkに事前にプロトコルが登録され,プロトコル論文も出版されたうえでプロトコルに沿って行われています.このレビューに含まれた研究の多くは西欧諸国からの論文であったようですが,その理由の一つとして米国などでは訪問看護の質の評価と報告が義務付けられている(例.米国のOASIS(Outcomes and Assessment Information Set))ことを著者らはあげています.今後日本を含むアジア諸国からの訪問看護の効果に関する論文の公表が期待されます.
Liu Sun, PhD, RN, Jun-E Liu, PhD, Meihua Ji, PhD, Yanling Wang, MS, Shaohua Chen, PhD Lingyun Wang, BS,
RN(2022)
Coping with multiple chronic conditions among Chinese older couples: A community of shared destiny.
中国の高齢夫婦における複数の慢性疾患への対処
Geriatric Nursing, 48, November–December, p.214-223
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2022.09.019
複数の慢性疾患(MCCs)は,患者とその配偶者に影響を与える.我々は,MCCsを持ちながら生活する中国の高齢夫婦の経験を調査し,彼らが夫婦としてどのようにMCCsに対処しているのかについて深く理解することを目的とした.半構造化面接を用いた質的研究デザインを実施した.参加者は60歳以上の16組の夫婦であり,NVivoソフトウェアを用いて主題分析を実施した.包括的なテーマ「運命を共有する共同体」のもと,次の4つのテーマが特定された:(i)通常の生活における様々な変化と影響,(ii)MCCsがもたらす多面的で動的なストレスと夫婦の課題,(iii)老化や運命論の影響を受けた形でのMCCsの受容と内省,(iv)運命共同体に基づく相互支援と夫婦の適応.MCCsへの対処は,高齢夫婦二人三脚での周期的な旅であった.この結果は,医療関係者がMCCsを抱える高齢夫婦に的を絞った介入策を開発する上で重要である.
複数の慢性疾患を抱える患者は世界的に増加しています.MCCsとともに生きる高齢患者とその配偶者の状況の受け入れから対処までのプロセスを,中国の高齢夫婦の価値観をベースに明らかにされています.その価値観がどこから来ているのかについてもデータから述べられていて興味深いです.対処の方法を夫婦二人三脚で模索していくプロセスが図式化されており,その図を基に「高齢夫婦の周期的な旅」の説明があります.MCCsを抱える高齢患者に対するケアへの示唆が得られる資料であると思います.興味のある方はぜひ本文をお読みください.
Andrea Yevchak Sillner, PhD, RN, Diane Berish, PhD, Tanya Mailhot, PhD, RN, Logan Sweeder, RN, Donna M.
Fick, PhD, RN, FAAN, Ann M. Kolanowski, PhD, RN, FAAN(2023)
Delirium superimposed on dementia in post-acute care: Nurse documentation of symptoms and
interventions
急性期ケア後に認知症に併発するせん妄:症状と介入の看護記録
Geriatric Nursng, 49, January–February p.122-126
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2022.11.015
認知症に併発するせん妄(DSD)は,急性期医療病院後の施設(PAC)へ退院した高齢者によく見られる.ベストプラクティスガイドラインでは,せん妄の症状を正確に記録し,せん妄を管理するために非薬物療法で看護師主導の介入を行う必要性が強調されているが,PAC環境ではせん妄に対するケアの状況についてほとんどわかっていない.そして,看護師の記録についても,記録の頻度やその内容についてまだ十分に明らかにされていない.本研究の目的は,大規模な単盲検ランダム化比較試験の二次データ解析において,DSDの症状や非薬物介入に関する看護記録の頻度や内容を明らかにし,年齢・性別・配偶者の有無,認知症のステージ,合併症レベル,薬の総数などの変数と,せん妄の症状及び介入に関する看護記録との間に関連があるかどうかを明らかにすることであった.サンプルの75%弱は,看護スタッフによって少なくとも1つのせん妄の症状が記載されていたが,25.9%は専門家によってせん妄と判定されたにもかかわらず,看護記録には何も記載がなかった.介入に関する記載は32%のみであった.記載されていた介入の数は,記載されていた症状の数と有意に関連していた.このような環境における脆弱な高齢者へのケアにインパクトを与えるために,効率的で正確な方法でDSDの症状や介入を看護師が文書化して伝えることに関する研究と革新が必要である.
DSDが急性期病院を退院した高齢者によくみられる状況であるのに,看護師のせん妄や介入に関する記述割合は低い傾向にあるという調査結果は,せん妄のケアが行われていてもその記録がないために検証が行いにくいことを示していると言えます.認知症高齢者への効果的なせん妄ケアを行うためには,看護師の記録が重要であるということの示唆になっていると思います.興味のある方はぜひ本文をお読みください.
Sarit Orlofsky, PhD, RN, CNS-MS, CDP, Kathryn Wozniak, PhD(2022)
Older adults' experiences using Alexa
高齢者のアレクサ使用における経験
Geriatric Nursing, 48, November–December, p.247-257
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2022.09.017
米国では65歳以上の成人が2040年に8100万人,2060年に9500万人に増加すると予想されている.Amazonのアレクサに代表される音声作動型パーソナルアシスタント(VAPA)は,自宅での健康,ウェルネス,社会参加,日常機能をサポートするスマートホーム技術を使って,高齢者がうまく年を重ねられるようにする可能性を持っている.この可能性をさらに探るため,AmazonのアレクサVAPA機器を6ヶ月以上使用した65歳以上の在宅高齢者12名にインタビューを行った.インタビューの目的は,高齢者の機器の使用に関する認識と経験を知ること及びこのテクノロジーが高齢者体験をどのように形成したのかについての洞察を得ることであった.高齢者は,アレクサの使用に関する初期および継続的なトレーニングやサポートを比較的受けなかったため,アレクサの全機能や特徴を十分に理解していないことが示唆された.高齢者はまた,他の手段よりもアレクサを使用する方が便利な場合にアレクサの使用を楽しんでいたが,アレクサを在宅で生活していくために不可欠なものとは考えていなかったようである.
地域在住高齢者がIT技術を使い生活を便利にするためには,その使用方法について継続的な支援が必要であるといえる一つの資料になっていると思います.今後,医療DXの推進により日本の地域在住高齢者にも遠隔診療などが行われていくと予測されるため注目すべき結果と言えますが,高齢者の生活を便利にすることと豊かにすることは異なるのかもしれません.興味のある方はぜひ本文をお読みください.
Hee Sun Kang, In Soon Koh, Kiyoko Makimoto, Miyae Yamakawa. (2023).
Nurses’ perception towards care robots and their work experience with socially assistive
technology during COVID-19: A qualitative study
COVID-19禍におけるケアロボットに対する看護師の認識と社会支援技術を利用したケアの経験:質的研究
Geriatric Nursing, 50, March-April, 234-239.
URL: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0197457223000319
本研究は,ケアロボットに対する看護師の認識と社会支援技術を使用する高齢者へのケア経験について探索することを目的とした.本研究では,認知症高齢者もしくは独居高齢者をケアする看護師18名を対象に質的記述的調査を行った.Zoomを用いたインタビューを実施した後,収集したデータを帰納的に分析した.内容分析の結果,(1)認識された利点(2)認識された課題(3)ケアの質を高めるために必要な改善点の3つのテーマが抽出された.参加者は,COVID-19禍においてケアロボットや社会支援技術は高齢者ケアに有用であると認識していた.その一方で,社会支援技術の性能的限界や労働負担の増加は高齢者ケアに負の影響を及ぼしていると感じていた.本研究結果は,社会支援技術やケアロボットが認知症高齢者や独居高齢者を支援する上で有益となる.
COVID-19禍におけるケアロボットや社会支援技術の有用性に関して看護師の認識や経験を質的にまとめた研究です.高齢化が進むアジア地域において,高齢者ケアを担う看護・介護人材不足は喫緊の課題であり,本研究で紹介されたようなケアロボットや社会支援技術へのニーズは今後益々高まることが予測されます.テクノロジー導入によるベネフィットとリスクを考え,医療者・患者ともに有用な使い方を探索することが求められるのではないかと思います.
Shasha Li, Yuecong Wang, Lijun Xu, Yingyuan Ni, Yingxue Xi. (2023).
Mental health service needs and mental health of old adults living alone in urban and
rural areas in China: The role of coping styles
中国の都市部及び農村部における独居高齢者のメンタルヘルスとそのサービスについて:対処行動がメンタルヘルスに及ぼす影響
Geriatric Nursing, 50, March-April,124-131.
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0197457223000204
本研究は,都市部と農村部に在住する独居高齢者のメンタルヘルス,メンタルヘルスサービスへのニーズ,メンタルヘルスへの対処行動について調査するとともに,メンタルヘルスへの対処行動が独居高齢者のメンタルヘルスやメンタルヘルスサービスにどのように影響しているかについて明らかにすることを目的とした.本研究では,717名の独居高齢者を対象に横断研究を行い,構造方程式モデリング及びブートストラップ法を用いて分析した.分析の結果,都市部は農村部よりもメンタルヘルスやメンタルヘルスサービスへのニーズが有意に低い一方で,対処行動に関するスコアは有意に高かった.また,都市部においてメンタルヘルスサービスへのニーズはメンタルヘルスにプラスの直接効果を示していた.さらに,都市部・農村部ともにメンタルヘルスサービスへのニーズは対処行動を媒介しメンタルヘルスに影響を及ぼしていた.本研究は,地域における独居高齢者への精神的な看護支援を検討する上での基礎資料となる.
独居高齢者は社会的孤立に陥りやすく,メンタルヘルスが悪化しやすいことは様々な媒体で報告されています.本研究は,717名の中国人独居高齢者を対象にメンタルヘルスとサービス及び対処行動との関連について着目した研究であり,地域に暮らす独居高齢者に対しどのような精神的サポートが有用であるかを把握する上で有益です.
Chun-Chin Tsai, Hsiu-Li Lee, Chia-Shan Wu, Pin-Yu Chen, Ting-Wei Chen, Mei-Fang Chen.(2023).
The efficacy of a mindfulness-based exercise program in older residents of a long-term
care facility in Taiwan.
台湾の高齢者施設に入所する高齢者におけるマインドフルネスをベースとした運動プログラムの効果
Geriatric Nursing, 50, March-April, 227-233.
URL:
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0197457223000290
高齢者施設に入所する高齢者はその多くが身体不活動状態にあり,彼らへの運動促進は不可欠である.本研究では,台湾の高齢者施設に入所する高齢者を対象に,マインドフルネスをベースとした運動プログラムを実施しその有効性について評価した.(訳者註:マインドフルネスをベースとした運動とは,1つ1つの動作に意識を集中させ,心の動きに対する身体の反応を感じ取りながら行う運動である.)便宜的サンプリングにて72名の高齢者施設入所者を収集し,介入群・対照群の2群に分けた.介入群(n=36)には8週間の運動プログラムを実施し,対照群(n=36)には日常的なケアを提供した.一般化推定方程式による解析の結果,ベースラインと介入直後及び介入3か月後において,実験群は対照群よりも転倒への恐怖,運動自己効力感,動的バランス,筋力の項目について有意に向上した.本研究は,高齢者施設に入所する高齢者の運動実践をどのように向上させるかについて検討する上で有用な資料となる.
近年,注目されているマインドフルネスを用いた研究です.マインドフルネスとは,今現在,起こっている経験に注意を向ける心理的な過程とされ,瞑想や訓練などを通して発達させることができるといわれています. 本研究は,台湾の高齢者施設に入所する高齢者を対象にマインドフルネスエクササイズ介入への効果を検証した研究です.本研究の運動プログラムでは,様々な筋力アップ運動を組み合わせた1回100分の運動を8週間実施されていました.論文中では,その運動内容がイラストを用いて視覚的にもわかりやすく紹介されています.介入内容にご関心のある方は是非論文をご覧ください.
Yang Yu-ting, Yao Miao, Yang Yong-wei, Ye Qiong, Lin Ting. (2022).
Exploring urban empty-nesters' using WeChat influencing factors and quality of life: A
qualitative descriptive study.
都市部の子供が巣立った家に住む親のWeChatの使用に影響する要因と生活の質の探索:質的記述的研究
Geriatric Nursing, 48, November-December, 183-189.
URL:
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S019745722200235X
【目的】都市部の子供が巣立った家に住む親のWeChatの使用に影響する要因と生活の質を探索する. 【方法】福州地域で,WeChatを使用していた,子供が巣立った14人の親を,質的記述的研究デザインのために,便宜的合目的的サンプリング法を用いてリクルートした.データは個別に対面による半構造化面接を通して収集し,内容分析を用いて分析した. 【結果】調査により,2つの主テーマとそれに関連するサブテーマが明らかとなった:1)WeChatの使用の影響因子,2)生活経験の質,である. 【考察】都市部の子供が巣立った家に住む親にとってのWeChat使用の影響要因は,生理学的要因,教育レベル,ソーシャルサポートであった.WeChatは子供が巣立った家に住む親にとって日々の生活を向上させる便利な手段であり,子供が巣立った家に住む親のニーズを満たす実践的なプラットホームである.これらの経験を明らかにすることは高齢者,とりわけ子供が巣立った家に住む老親が知性の時代を受け入れることに役立ち, ますます常態化していく子どもが巣立った家での生活にひらめきや参考になる情報を与えるだろう.
WeChatとは,中国で開発された世界で10億以上の人が登録していると言われているメッセンジャーアプリです.日本でも高齢の方々がメッセンジャーアプリを使われることも増えていると思います.日本でも,子どもが巣立った後の高齢者の生活におけるテクノロジーの活用について把握することが有益かもしれません.
Tomoyuki Shinohara, Kosuke Saida, Shigeya Tanaka, Akihiko Murayama, Daisuke Higuchi.(2022).
Factors for the change in frailty status during the COVID-19 pandemic: A prospective
cohort study over six- and 12-month periods in
Japan.COVID-19
パンデミックにおけるフレイル状態の変化に対する要因:日本における6ヵ月,12ヵ月後の前向きコホート研究
Geriatric Nursing, 48, November-December,111-117.
URL:
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0197457222002002
本研究の目的は,COVID-19下でのフレイル状態とフレイル状態の変化に関連する要因を明らかにすることである.2020年5月から7月,2020年11月から2021年1月,2021年5月から7月の,6ヵ月ごと3回のコホート研究を実施した.フレイル状態は,フレイルスクリーニング指標を用いて評価した.フレイル状態の変化が健康状態やライフスタイルに関連しているかどうかを明らかにするために,多変量一般化線形混合効果モデルを用いた.404の調査票を分析した.咀嚼機能の減退(β=0.552)と下肢筋力の低下(β=0.515)が,有意に6ヵ月後のフレイル状態の変化に関連しており,下肢筋力の低下(β=0.512)は12ヵ月後のフレイル状態の変化に関連していた.健康の悪化に関するリスク要因は適切なサポートを行っていくために評価されるべきである.とりわけ,高齢者における主観的な下肢筋力の低下の評価は重要である.
高崎健康福祉大学の理学療法学科の研究者らによる日本からの発信です.コロナ禍のような高齢者の身体活動が制限される状況でのフレイル予防の方法の開発の必要性の根拠の一つとなる実証研究と思います.
Lili Chen, Huizhen Cao, Xiaoqi Wu, Xinhua Xu, ... Hong Li. (2022).
Effects of oral health intervention strategies on cognition and microbiota alterations
in patients with mild Alzheimer's disease: A randomized controlled
trial.
軽度アルツハイマー病患者におけるオーラルヘルス介入戦略の認知と微生物叢の変化についての効果:ランダム化比較試験
Geriatric Nursing, 48, November-December, 103-110.
URL:
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0197457222002075
私たちは,軽度アルツハイマー病患者に対するオーラルヘルス介入の口腔細菌叢と認知機能への効果を探索し,疾患の進行への影響を明らかにした.66人の軽度アルツハイマー病患者をランダムに介入群と対照群に割り当て,それぞれに24週間のオーラルヘルス介入あるいは通常ケアを実施した.データはベースラインと24週目に収集した.口腔の細菌叢の分析には16SリボソームRNAシーケンスを用いた.24週間のオーラルヘルス介入の後,カイザー・ジョーンズ短縮口腔健康検査(BOHSE),Mini-Mental State Examination(MMSE),神経精神医学的調査(NPI),老人ホーム適応尺度(NHAS),アルツハイマー病関連研究-ADL(ADCS-ADL)得点はグループ間で異なっていた(p < 0.05).アルツハイマー病患者の歯肉縁下の歯垢は,多様で多くの口腔細菌叢を示し,介入グループではより多くの正常な口腔細菌叢を示した.オーラルヘルス介入戦略は,歯肉縁下の歯垢の改善と軽度アルツハイマー病患者における認知機能の低下を遅らせることに効果的であることを明らかにした.
多要素介入を,RNAシーケンスと複数の評価尺度によって評価した中国で行われたランダム化比較試験です.オーラルヘルス介入は3日間のトレーニングを受けたファシリテーターにより行われ,作業療法プログラムに基づいた3週間に1回の訪問や,口腔セルフケアの促進,self-determination theoryに基づいて開発された多職種による講義などで構成されていたようです.実際に行われた介入内容に関心のある方は論文を確認されるとよいかもしれません.