この企画は,本学会会員の皆様の看護実践や研究活動等に役立つと思われる国際誌掲載論文を紹介することを目的としています.高齢者の生活施設で勤務する看護師の団体であるAmerican
Assisted Living Nurses Associationと老年看護の高度実践看護師の団体であるGerontological Advanced Practice Nurses
Associationの公式雑誌であるGeriatric Nursing誌から1回につき3つの論文のタイトルと要旨を翻訳しご紹介します.ご紹介する論文はGeriatric
Nursing誌の最新巻から,文化が類似していて,日本の実践・研究に参考にしやすいと思われる東アジア圏(日本,中国,韓国,台湾等)の著者の論文を主に選定します.
今後,2か月に1回程度ご紹介する予定です.会員の皆様に興味を持っていただけそうな論文を選んで紹介させていただきます.関心のあるテーマなどございましたら,お知らせください.
日本老年看護学会国際交流委員会
Junhee Ahn PhD, Youngran Yang PhD, Gloria Park PhD, APRN, FNP-C, RN (2024)
Advancing elderly diabetes care: exploring the usability and acceptance of continuous glucose monitoring (CGM)
高齢者に対する糖尿病ケアの推進:継続的グルコースモニタリング(CGM)の有用性と受容性の検討
Geriatr Nurs.2024 September-October; 59:15-25.
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.06.041
本研究は、高齢糖尿病患者における持続血糖モニタリング(CGM)の受容性、使いやすさ、遵守状況、満足度を評価することを目的とし、 混合研究法を用いて、平均年齢74.79歳の30名の糖尿病と診断された参加者を対象に行われた。参加者は14日目にCGMのためのデバイスを交換し、 連続して4週間、上腕の外側にリーダーとセンサーを装着した(高さ:5mm、直径:35mm)。フォーカスグループインタビューによる参加者の語りと、 尺度を用いて調査されたCGMの受容性、使いやすさ、満足度、および遵守度のデータを包括的に分析し、糖尿病管理におけるCGMの効果が評価された。 その結果、CGMは高齢糖尿病患者にとって非常に使いやすく、受け入れられやすいことが示された。参加者は、CGMを効果的に活用することで、 血糖値の傾向を監視・予測するようになり、血糖管理やライフスタイルに良い影響を与えた。平均遵守率は81%であり、効果的な自己管理と治療に関する意思決定が行われたことが示された。 今後、高齢者向けのCGM教育プログラムの開発、医療従事者の教育、CGMの保険適用の拡大、リアルタイムCGM技術の普及を推奨し、高齢者における使いやすさと受け入れやすさを向上させることが提案された。
この研究は、在宅で生活している高齢糖尿病患者を対象に韓国で実施された調査です。この調査では、上腕の外側に装着したセンサーをスマートフォンのアプリと連動することで、
1分毎に測定された血糖値をリアルタイムで参加者が確認できるシステムを高齢糖尿病患者が用いた際の効果が、質的・量的データを用いて評価されています。
近年、ヘルスケア分野において様々なウェアラブルデバイスが開発されていますが、高齢者においても、加齢に伴う身体的・認知的側面に配慮しながら日常生活に取り入れることで、
健康の維持に寄与することが十分可能であることが示唆された論文です。今回の論文で使用されたCGMにご関心のある方は、下記のURLをご参照ください。
https://www.myfreestyle.jp/hcp/products/
Qinqin Liu, Yuli Huang BS, BinlinWang BS, Yanyan Li PhD, Wendie Zhou PhD, Jiaqi Yu PhD, Hejing Chen MS, Cuili Wang PhD (2024)
Joint trajectories of pain, depression and frailty and associations with adverse outcomes among community-dwelling older adults: A longitudinal study
地域在住高齢者における疼痛、抑うつ、虚弱の共同軌跡と有害転帰との関連: 縦断的研究
Geriatr Nurs.2024 September-October; 59:26-32
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.06.039
本研究の目的は、疼痛、抑うつ、虚弱の共同軌跡と有害事象との関連を検討することであった。中国健康・退職縦断研究(CHARLS 2011ー2018)の全国データが使用され、 60歳以上の4217人を対象に分析を行った。2011年(1波)、2013年(2波)、2015年(3波)のデータを使用し、疼痛、抑うつ、虚弱の共同軌跡が明らかにされた。 また、2018年(4波)のデータを用いて、日常生活動作(ADL)障害、手段的ADL(IADL)障害、認知機能低下、転倒、入院、全死亡などの有害事象の発生と共同軌跡との関連が評価された。 共同軌跡の特定には並列過程潜在クラス成長分析を用い、有害事象との関連は、修正ポアソン回帰を用いて評価された。 分析の結果、4つの明確な共同軌跡(①痛み、抑うつ、虚弱の持続的な欠如(69.1%)、②痛みと抑うつはゆっくりと減少するが虚弱は持続する(12.5%)、③痛み、抑うつ、虚弱はゆっくりと進行する(11. 8%)、 ④痛み、抑うつ、虚弱の組み合わせは持続的である(6.6%))が同定された。グループ①と比較して、その他の3つのグループは、機能障害と入院のリスクが高かった。 グループ③④は、認知機能の低下と関連し、グループ②は全死因死亡率と関連した。この結果により、痛み、抑うつ、虚弱が経時的に変化する際の特有の特徴と健康への影響が明らかになり、 高齢者に対する身体的・心理的ケアの統合の必要性が示唆されている。
この研究は、中国国内の全国規模のデータを用いて実施され、痛み、抑うつ、虚弱が時間の経過とともにどのように動的に変化し、そうした変化が有害事象にどのような影響を与えるのかを検証したものです。 結果として、痛み、抑うつ、虚弱をできるだけ早く予防または軽減することで、高齢者を様々な有害事象から守ることができる可能性があることが示されています。 痛み、抑うつ、虚弱は互いに影響しあっているため、身体的、心理的状態を包括的に評価し、予防や介入プログラムを考えていくうえで有用な論文であると言えます。
Ting-Fu Lai, Chih-Ching Chang, Ming-Chun Hsueh, Mohammad Javad Koohsari, Ai Shibata, Yung Liao, Koichiro Oka (2024)
Association of 24-Hour movement behavior and cognitive function in older Taiwanese adults
台湾の高齢者における24時間の運動行動と認知機能の関連性
Geriatr Nurs.2024 September-October; 59:60-66
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.06.028
本研究の目的は、24時間の行動(身体活動、座位時間、睡眠)が高齢者の認知能力とどのように関連しているのかを検討することであり、 65歳以上の高齢者213名へ7日間連続して加速度計を装着し、その活動量を追跡した。認知機能はMini Mental State Examination (MMSE)を用いて評価した。 分析には、3つの多変量線形回帰モデル(単一置換、分割置換、等時性置換)を利用し、等時性置換分析では、ある行動を別の行動に置き換えることが認知にどのような影響を与えるかを調べた。 その結果、軽い身体活動の増加は認知機能の改善と関連していたが、睡眠時間の延長は認知機能に負の影響を及ぼした。 30分間の座位や睡眠を軽い身体活動に置き換えることで、見当識、注意力、言語、短期記憶が改善された。中等度から活発な身体活動に置き換えても、同様の認知機能に対する効果は得られなかった。 高齢者に座位時間や過剰な睡眠を軽い身体活動に置き換えるよう促すことは、認知面での健康を支え、認知症の予防に役立つ可能性がある。 これらの知見は、高齢化社会における認知的なウェルビーングを促進する公衆衛生戦略に示唆を与えるものである。
本研究は、高齢者における24時間の行動と認知機能の関係を、7日間連続して収集した加速度計データを用いて検討したものです。 これまでも、認知機能の改善や認知症予防には、運動が効果的であることは、多くの研究で示されてきました。座位時間や過剰な睡眠を、強度の強い身体活動ではなく、軽い身体活動に置き換えることで、 十分な効果を得ることができることが本研究で検証されたことで、医療従事者は、高齢者がそれぞれの日常生活に取り入れやすく継続して実施することができる身体活動を提案していくことが求められていると言えるでしょう。