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国際交流委員会から国際誌掲載論文のご紹介
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この企画は,本学会会員の皆様の看護実践や研究活動等に役立つと思われる国際誌掲載論文を紹介することを目的としています.高齢者の生活施設で勤務する看護師の団体であるAmerican Assisted Living Nurses Associationと老年看護の高度実践看護師の団体であるGerontological Advanced Practice Nurses Associationの公式雑誌であるGeriatric Nursing誌から1回につき3つの論文のタイトルと要旨を翻訳しご紹介します.ご紹介する論文はGeriatric Nursing誌の最新巻から,文化が類似していて,日本の実践・研究に参考にしやすいと思われる東アジア圏(日本,中国,韓国,台湾等)の著者の論文を主に選定します.
今後,2か月に1回程度ご紹介する予定です.会員の皆様に興味を持っていただけそうな論文を選んで紹介させていただきます.関心のあるテーマなどございましたら,お知らせください.

日本老年看護学会国際交流委員会

INDEX

Vol.16

1.比較研究

Staff outcomes and the work environment in Green Care Farms and traditional nursing homes: A comparative study
グリーンケアファームと従来型介護施設における職員のアウトカムと職場環境:比較研究
Katharina Rosteius, Bram de Boer, Ramona Backhaus, Jan de Jonge, Hilde Verbeek, International Journal of Nursing Studies, 167, 2025.
URL: https://doi.org/10.1016/j.ijnurstu.2025.105078


要旨

 本研究は、オランダにおける認知症高齢者介護の新たな施設形態「グリーンケアファーム(Green Care Farms, GCF)」と、 従来型の介護施設(Traditional Nursing Homes, TNH)において、直接ケアに従事するスタッフの職場環境とアウトカムの違いを明らかにすることを目的とした比較研究である。 GCFでは、家庭的な環境のもと自然や動物との触れ合いを取り入れ、スタッフがケアに加えて家事や活動支援にも関わる統合的業務を担う。
 オランダ国内のGCF 10施設とTNH 21施設から、それぞれ262名および380名の直接ケアスタッフがオンライン調査を通じて回答した。 スタッフのアウトカムは8 指標(仕事のパフォーマンス4指標:持続可能な業務パフォーマンス、活力、疲労、職務満足度、職場環境4指標:業務要求、仕事資源、 仕事からの回復、チーム風土)を用いて評価した。分析の結果、仕事の要求水準や将来的な持続可能な仕事パフォーマンスへの期待については両施設間で差は認められなかったが、 スタッフの職務満足度はGCFが平均4.28(95 % CI 4.14–4.43)、TNHが平均3.67(95 % CI 3.54–3.80)と、統計的に有意な差が示された。 さらに、仕事資源(支援・権限など)、活力レベル、仕事後の回復の良さ、チーム風土についても、GCFスタッフの方がTNHスタッフを上回っていた。
 研究者らは、仕事への不満・ストレス・バーンアウトがスタッフの離職予測因子であることに着目し、 GCFのような環境要素を導入することで、より健康的で定着の期待できる職場環境を提供できる可能性を示唆している。 また、他の介護施設の職場環境改善につながるように、これらの要素に関するさらなる研究が期待される。


国際交流委員会委員コメント

 本研究は、認知症ケア施設におけるスタッフの働きやすさと職務満足度に焦点を当て、施設環境が与える影響を明らかにした点で示唆に富む内容です。 グリーンケアファームのような自然と日常生活に根ざしたケア環境では、スタッフの活力やチームの連携、仕事への満足感が高く、仕事後の疲労回復も良好であることが示されています。 これらの知見は、介護職の離職防止や職場環境の改善策を模索する日本の高齢者ケア現場にも応用の可能性があり、また施設方針やケアの見直しにヒントを与えてくれます。 ケアの質はスタッフの働く環境と深く結びついており、高齢者にとってもより良い暮らしにつながると考えられます。


2.横断的研究

Digital leisure and psychological well-being in later life: Examining roles of active-constructive responses and gratitude
老年期におけるデジタルレジャーと心理的ウェルビーイング:積極的・建設的な対応と感謝の役割の検証
Liang-Chih Chang, John Dattilo, Fei-Hsin Huang
Geriatric Nursing, 64, 2025.
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2025.103423


要旨

 本研究は、高齢者を対象とした デジタルレジャー(楽しみのためのICT利用)の心理的ウェルビーイング(PWB)への影響を、 特に他者からの積極的・建設的反応(active‑constructive responses)と感謝(gratitude) がどのように作用するかを検証することを目的とした。
 台湾在住のデジタルレジャーを日常的に行う 315名の高齢者を対象に、他者の積極的・建設的な反応と感謝が心理的ウェルビーイングを予測するかについて、 多重回帰分析を用いて主効果および交互作用効果の検証を行った。その結果、他者からの積極的・建設的反応の知覚、感謝の感情が心理的ウェルビーイングに影響していた。 また、積極的・建設的反応と感謝が交互作用的に心理的ウェルビーイングを予測することも示され、感謝が豊かな人ほど、他者反応の効果をより強く受け取っている傾向が明らかになった。
 これらの知見から、デジタルレジャーを通じた他者との相互作用においては、単なる受動的な利用ではなく、 応答の質や感謝の感情といった 関係性の豊かさが心理面の健康に大きく影響することが示唆された。


国際交流委員会委員コメント

 本論文は、デジタル技術が日常に浸透した現代において、高齢者がICTを通じたレジャー活動を享受することと、 その心理的ウェルビーイングがどう関連しているかを、他者反応の質と感謝の感情という視点から明らかにした研究です。 多くの先行研究が「利用頻度」や「種類」に注目する中、本研究は相互交流の質的側面に焦点をあて、 心理的ウェルビーイングに与える効果を検証している点が特徴的です。デジタルレジャーで高齢者の心理的ウェルビーイングを支援するには、 ICTリテラシーやツール提供のみならず、相互交流の質を高めるサポートや感謝の感情を促す支援も大切でしょう。 高齢者ケアにオンラインツールやデジタル交流プログラムの導入が進む中、介護施設や地域のデジタル支援プログラム導入時に、 「相互交流の質」と「感謝の醸成」に配慮した設計を行うことで、より豊かな心理的効果を促せる可能性が示唆されます。


3.質的研究

Exploring the meaning of and barriers to quality of care for people living with dementia through the perspective of care home staff: A qualitative study
認知症ケアの質の意味と障壁を、介護施設スタッフの視点から探究する:質的研究
Kiera Kenny, Helen Odell-Miller, Ming-Hung Hsu, Geriatric Nursing 64, 2025.
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2025.04.018


要旨

 本研究の目的は、介護施設スタッフが認知症入居者に質の高いケアを提供する意味と、そこにどのような障壁が介在しているかをスタッフ視点から探究することである。 イギリスの都市部および地方の5施設に勤務する14名の介護施設スタッフ(平均年齢35±14歳)を対象に、2022年から2023年にかけて半構造化インタビューを実施した。 得られたデータからテーマを導き出すために、帰納的テーマティック分析法が用いられ、8つの主要テーマと4つのサブテーマが抽出された。
スタッフがどのようにケアの質を理解し実践していたかは、①入居者のニーズである健康とウェルビーイングへのケア(身体的・心理社会的・パーソンセンタードケア)、 ②入居者の選択を可能にすること、③ケアスタッフの資質、であった。良質なケアを提供するために必要と感じている支援としては、④情報や学習の機会、より広範な支援、 ⑤十分な人員配置、⑥アクティビティのための資源が挙げられた。これに対して、質の高いケアを阻む障壁として、⑦認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)、 ⑧時間的制約(人員配置要因)が明らかになった。
 本研究は、認知症入居者へのケアの質を介護施設スタッフがどのように理解し提供しているかをケアスタッフ自身の視点から明らかにした。 介護組織、政策立案者、利害関係者、研究者は、認知症入居者に対して継続して質の高いケアが提供されるために、ケアスタッフのニーズに対応すべきである。 この研究結果を今後の介護施設における介入策に組み込むことで、ケアの質向上に役立てることがでるであろう。


国際交流委員会委員コメント

 本研究で示された内容は、私たちが日々認知症ケアの現場で感じていること、すなわち「パーソンセンタードケアの重要性」や 「人員・時間的制約がケアの質に影響する」といった点とほぼ類似しています。多くの現場で実践されている考え方や課題意識が、 スタッフの語りを通じて丁寧に整理・分析されており、現場での経験や取り組みが改めて妥当なものであると確認できる内容です。 そのうえで、BPSDへの対応や時間的制約といった具体的課題は、支援体制や研修内容を見直す際の参考になるでしょう。 既知の課題を明確に言語化・構造化した本研究は、現場の声を可視化するという点でも有用と考えられました。