この企画は,本学会会員の皆様の看護実践や研究活動等に役立つと思われる国際誌掲載論文を紹介することを目的としています.高齢者の生活施設で勤務する看護師の団体であるAmerican Assisted Living Nurses Associationと老年看護の高度実践看護師の団体であるGerontological Advanced Practice Nurses Associationの公式雑誌であるGeriatric Nursing誌から1回につき3つの論文のタイトルと要旨を翻訳しご紹介します.ご紹介する論文はGeriatric
Nursing誌の最新巻から,文化が類似していて,日本の実践・研究に参考にしやすいと思われる東アジア圏(日本,中国,韓国,台湾等)の著者の論文を主に選定します.
今後,2か月に1回程度ご紹介する予定です.会員の皆様に興味を持っていただけそうな論文を選んで紹介させていただきます.関心のあるテーマなどございましたら,お知らせください.
日本老年看護学会国際交流委員会
Guang Shi MSc, Jingyun Chen PhD, Shuhua Lu BSN, Silian Li BSN, Lifen Ruan BSN, Wanmin Huang MSc (2025).
Clinical practice and standard discrepancies in aspiration prevention among advanced practice nurses in geriatrics: A cross-sectional survey
老年領域の高度実践看護師の臨床実践と誤嚥予防に関する標準策との相違:横断的調査
Geriatr Nurs, 2025 January–February; 61: 1-5
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.10.069
目的:老年領域の高度実践看護師(APN)の臨床実践と誤嚥防止基準の相違を調査し、高齢者のリスク評価と予防戦略の基礎を提供すること。 方法:2023年11月20日~12月30日に便宜的サンプリングにて、中国広東省の老年領域のAPN227名を対象に調査を行った。 高齢者の誤嚥予防戦略に焦点を当てた人口統計学的情報入力フォームや質問票を用いてデータを収集した。単変量および多変量線形ステップワイズ回帰分析を行い、APNによる誤嚥予防の効果に影響を与える因子を明らかにした。 結果:高齢者の誤嚥予防に関する老年領域のAPNの平均得点は94.9±17.4点であった。 多変量回帰分析の結果、病院のレベル、エビデンスに基づく実践、仕事のやりがいが有意な因子として同定された。 結論:本研究は、高齢者ケアにおけるAPNの本質的な貢献を強調し、誤嚥予防戦略を最適化するための持続的な専門職の育成とエビデンスに基づくプロトコルの遵守の必要性を強調するものである。
この研究は、中国の広東省において、老年領域のAPNの高齢者の誤嚥予防における実践の効果への影響因子を調査しています。研究対象者の組み入れ基準より、対象となったAPNには、1)少なくとも3か月間の老年看護研修を修了していること、2)3年以上の高齢者看護の実務経験を有すること、3)老年看護研修修了後1年以上高齢者ケアに従事していることとあり、本邦のAPNの状況とは必ずしも一致しません。しかしながら、本研究は、中国のAPNが高齢者の誤嚥予防において持つ強みや課題を明らかにしており、他国の実践状況を把握し、今後の指針を検討する上で重要な示唆を提供しています。
Nina Jøranson (Associate Professor), Minna Zechner (Associate Professor), Rosa Silva (Assistant Professor), Nilufer Korkmaz Yaylagul (Professor), Hilde Thygesen (Professor) (2025).
A case study on experiences with integrated technologies in a care home for older adults
高齢者に対する在宅ケアにおける統合テクノロジー経験に関するケーススタディ
Geriatr Nurs, 2025 January–February; 60: 121-128
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.10.059
増え続ける高齢者の自立生活を促進するため、テクノロジーを統合した斬新なコンセプトのケアホームなど、革新的な住宅ソリューションが開発されている。このケーススタディは、高齢者の自立を促進するという意図された目標と、テクノロジーが高齢者の日常生活に与える実際の影響との間に大きな隔たりがあることを明らかにしている。本研究では、ケア+ホームにおける日常生活へのテクノロジーの貢献とともに、入居者の統合テクノロジーの使用に関する認識、経験、ニーズを調査した。データは質的内容分析によって分析された。重要な発見は、1つのサイズがすべてに「適合」するわけではないということであり、マンションに設置された標準化されたテクノロジーは、利用者の個々のニーズを満たせないことが多いことを示している。この調査により、高齢者特有のニーズに合わせてテクノロジーを調整することの重要なギャップが明らかになった。自律性と福祉に焦点を当てたエイジング・イン・プレイス政策と技術的ソリューションを整合させることは、ケア環境を強化するために不可欠である。
本研究は、ノルウェーのケアホームに入所する3名の対象者に対する半構造化面接を用いた質的ケーススタディでした。この施設は、様々なテクノロジーが用いられ、例えば、情報通信用タブレットを通じてスタッフや入居者とコミュニケーションを取り、館内のカフェやアクティビティ、インターネットやラジオなどオプション利用ができるシステムが導入されています。そのような施設に入所する高齢者の経験についてのユニークな質的調査です。現在、Society5.0を目指し、日本においても様々なテクノロジーが導入されていますが、高齢者の自立支援に繋がるテクノロジーの選択は、ユーザーの意見を十分取り入れる必要がありそうです。 補足:ケア+(ケアプラス)とは、ノルウェーで2012年より開設された自治体が運営する67歳以上の人を対象にしたケアホームのことです。2023年にはオスロ市内に13箇所ほど開設され、法的には入居者の自宅となります。ケア+ホームは、様々なテクノロジーソリューションを統合して、全居室にわたるテクノロジーのインフラを確立し、個々のニーズに合わせて、居住者の安全・安心・自立をサポートすることが期待されています。
Ya-Chuan Tseng PhD, Sara Hsin-Yi Liu PhD, Bih-Shya Gau PhD, Tien-Chen Liu PhD, Nien-Tzu Chang PhD, Meei-Fang Lou PhD (2025).
Lived experiences and illness perceptions of older adults with age-related hearing loss before
the use of hearing aids: An interpretative phenomenological study
補聴器を使用する前の加齢性難聴高齢者の生活経験と病気に対する認識: 解釈的現象学的研究
Geriatr Nurs. 2025 January–February ; 61: 231-239.
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.11.006
加齢性難聴は慢性的な健康状態である。この質的研究では、自己調節のコモンセンスモデルを適用し、加齢性難聴の高齢者の生活経験と病気の認識を調査した。目的サンプリングにて、65歳以上の難聴高齢者20名を募集した。データは対面の半構造化面接で収集した。インタビューデータは解釈的現象学的分析を行った。1)気づき、2)影響、3)対処、4)評価の4つの包括的なテーマが抽出された。これらは、補聴器を利用する前に、対象者が進行性難聴をどのように認識し、どのように反応したかを表している。難聴の影響は多様で複雑であり、疲労、ストレス、対人関係の葛藤などがあった。対象者は、積極的または回避的な行動変化で対応していた。本研究による知見は、高齢者が加齢性難聴をどのように認識し、対処しているのかを臨床家が理解するのに役立ち、個人や家族に焦点を当てた効果的な介入方法の開発につながる可能性がある。
加齢性難聴は多くの高齢者が経験し、高齢者にとっては対人関係や社会的孤立、認知機能に影響を与える重要な課題です。本研究は、高齢者が徐々に低下していく聴力の中で、生活への影響をどのように経験し認識していたかについて、台湾で実施された調査です。対象者の語りに基づき、具体的な生活の経験、認識について記述されており、難聴の高齢者の生活を理解する上で、大変有用な論文となっています。 自己調節のコモンセンスモデルを用いた研究がわが国でも行われています。自己調節のコモンセンスモデルにご興味のある方は以下のURLからアクセスください。 浅井克仁, 籏持知恵子, & 南村二美代. (2021). 慢性心不全患者における病気認知の関連因子. 日本看護研究学会雑誌, 44(1), 1_41-1_50. URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsnr/44/1/44_20200723100/_pdf/-char/ja