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国際交流委員会から国際誌掲載論文のご紹介
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この企画は,本学会会員の皆様の看護実践や研究活動等に役立つと思われる国際誌掲載論文を紹介することを目的としています.高齢者の生活施設で勤務する看護師の団体であるAmerican Assisted Living Nurses Associationと老年看護の高度実践看護師の団体であるGerontological Advanced Practice Nurses Associationの公式雑誌であるGeriatric Nursing誌から1回につき3つの論文のタイトルと要旨を翻訳しご紹介します.ご紹介する論文はGeriatric Nursing誌の最新巻から,文化が類似していて,日本の実践・研究に参考にしやすいと思われる東アジア圏(日本,中国,韓国,台湾等)の著者の論文を主に選定します.
今後,2か月に1回程度ご紹介する予定です.会員の皆様に興味を持っていただけそうな論文を選んで紹介させていただきます.関心のあるテーマなどございましたら,お知らせください.

日本老年看護学会国際交流委員会

INDEX

Vol.9

1.質的研究

Marín-García Elena, RN, Martínez-Angulo Pablo, RN, Ms. C, PhD
Sociocultural interactions and self-perception of health in older adults from an active participation centre: A qualitative study
Active Participation Centreに参加している高齢者の社会文化的相互作用と健康の自己認識:質的研究
Geriatric Nursing 57(2024) 73 -79
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.04.001


要旨

 健康的に年を重ねることを推進していくことは世界的な優先課題である。本研究は、スペインのアンダルシア自治州南部にあるActive Participation Centre(APC)という高齢者の交流や社会文化的活動を促進する施設で実施した。APCは、心理社会的・感情的な健康を育み、高齢者の充実した活動的なライフスタイルに貢献する鍵となる可能性がある。本研究の目的は、APCの地域社会文化活動に参加している高齢者の健康状態の自己認識、社会文化的活動への参加に対する認識、社会文化的活動への参加時に現れる感情、嗜好について探求することである。解釈学的研究方法に沿って、9人の高齢者へインタビューを実施し、データ分析には解釈学的考察を用いた。
 分析の結果、APCが心理社会的・精神的な状況に対する治療的空間として重要であること、感情的なウェルビーイングにプラスの影響を与えること、社会的なつながりを育むこと、個人の好みに応じた多様な活動を提供していることが明らかになった。本研究結果は、社会文化的活動への参加と健康の自己認識との間の相互作用を強調し、APCに通う高齢者のウェルビーイングを促進するための総合的アプローチの必要性を強調している。


国際交流委員会からのコメント

 スペインにはActive Participation Centre(APC)が多く設立されており、高齢者がよく利用されているようです。社会活動、文化活動、レクリエーションやスポーツ、音楽、工芸、観光などのほか法律相談やパソコン教室などのサービスを提供しているAPCもあり、そういった地域社会での活動が高齢者のウェルビーイングに良い影響をもたらすことが明らかにされています。APC参加者が好む活動についても明らかにされていますので、より詳しい効果や高齢者の活動嗜好、その理由などについてご関心のある方はぜひ論文にアクセスしてください。


2.記述的横断研究

Canan Sari, Leyla Adiguzel, Birsel Canan Demirbag
An assessment of informal caregivers’ knowledge levels on daily and emergency care practices for the elderly: A descriptive cross-sectional study
高齢者の日常的なケアと緊急時ケアの実践に関するインフォーマルな介護者の知識レベルの評価:記述的横断研究
Geriatric Nursing 57(2024) 163 -168
URL:https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.04.012


要旨

 本研究の目的は、インフォーマルな介護者の日常的なケアと緊急時の知識レベル、およびインフォーマルな介護者の社会人口統計学的特性が知識レベルに及ぼす影響について明らかにすることである。 この記述的横断研究は、2021年11月1日から2022年6月30日の間に、北東トルコの農村部に住む83人(79.8%)のインフォーマルな介護者を対象に実施した。 データの収集にはバーセルインデックス、社会人口統計学的調査票、高齢者ケア及び緊急時ケアを必要とする状況に関する情報調査票を用いた。 介護者の高齢者ケアに関する知識レベル、高齢者ケアと緊急事態の経験、教育レベル、高齢者ケアに関するさらなる情報が必要であるという認識には、統計学的に有意な差が認められた(p<0.05)。 インフォーマルな介護者には看護師による訓練が必要である。


国際交流委員会からのコメント

 この研究はトルコの家父長制が残る農村部において実施されました。家族であるインフォーマルな介護者の高齢者に対する自宅でのターミナルケアや緊急時の対応に関する知識レベルについて評価し、地方で在宅介護をしている介護者への有効なプログラムの開発につなげるために実施されたものです。世界的に家族が高齢者を介護するという状況である中、在宅介護における知識を持つことの重要性や社会システムとして要介護高齢者をどう包摂していくのかが課題となっています。日本、韓国、ドイツなどの先進国では介護が制度化されている一方で、トルコなどの家父長制が残る国々では家族が介護する文化規範があるようで、高齢者の緊急事態に対応するために、看護師による家族介護者の知識レベルを向上する研修が必要とされています。各国の社会規範に適合する形のシステムを開発する必要性が示唆される論文だと思います。


3.横断研究

Mostafa Shaban, Marwa Mamdouh Shaban, Mohammed Elsayed Zaky, Majed Awad Alanazic, Osama Mohamed Elsayed Ramadan, Ebtesam Mo"awad Elsayed Ebied, Nagwa Ibrahim Abbas Ghoneim, Sayed Ibrahim Ali
Divine resilience: Unveiling the impact of religious coping mechanisms on pain endurance in arab older adults battling chronic pain
信仰心による回復力:慢性疼痛を抱えているアラブ系高齢者の宗教的対処メカニズムが疼痛耐性に与える影響を明らかにする
Geriatric Nursing 57(2024) 199-207
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.04.022


要旨

 慢性疼痛は、多くの高齢者の生活の質を低下させる。痛みからの回復力を高めるための効果的な対処法を明らかにすることは高齢化が進む中で必須である。 高齢者は痛みに耐えるために宗教的信仰やスピリチュアルな実践を用いることが一般的であるが、それらが痛みの許容範囲にどれだけ影響しているかについて調査した研究はほとんどない。 この横断研究では、慢性疼痛を抱えるアラブ人高齢者200人に対し、肯定的/否定的な宗教対処スタイルと疼痛耐性との関係を調査した。 調査項目は、アラブ宗教対処尺度簡易版、疼痛評価尺度、WHOのQOL簡易版及び属性・病歴であった。分析の結果、肯定的な宗教的再評価と積極的なスピリチュアル・コーピングは、自己報告による疼痛耐性の高さと有意な正の関連を示した(p<0.05)。 否定的な宗教的対処スタイルは、疼痛耐性と有意な関連を示さなかった。共変量をコントロールした重回帰分析を行った結果、疼痛回復力を改善するうえで、再評価とスピリチュアルな実践が独自の効果を持つことが確認された。 宗教的対処による多次元的な神経認知的、感情的、心理社会的苦痛の緩和を強調する観点と一致する結果が得られた。 この結果は、高齢者の疼痛管理のための生物心理社会的パラダイムに、信仰に基づく積極的な資源を統合することを強調するものである。 多様な高齢者グループに対する宗教的対処効果に影響を及ぼす因果関係や文脈的要因を調査するための追加研究が必要である。


国際交流委員会からのコメント

 この研究は、エジプトで行われた研究であり、慢性疼痛を抱えたアラブ系高齢者の宗教的対処メカニズムが慢性疼痛耐性を向上させることを明らかにしたものです。 慢性疼痛を抱える高齢者に対して信仰やスピリチュアルな実践が疼痛緩和に有効であるという結果は今後、定住外国人が増えると予想されている日本において看護を実践していくうえで、そういった慢性疼痛への対処が有効であるということを知ることも大切なことと思います。