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国際交流委員会から国際誌掲載論文のご紹介
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この企画は,本学会会員の皆様の看護実践や研究活動等に役立つと思われる国際誌掲載論文を紹介することを目的としています.高齢者の生活施設で勤務する看護師の団体であるAmerican Assisted Living Nurses Associationと老年看護の高度実践看護師の団体であるGerontological Advanced Practice Nurses Associationの公式雑誌であるGeriatric Nursing誌から1回につき3つの論文のタイトルと要旨を翻訳しご紹介します.ご紹介する論文はGeriatric Nursing誌の最新巻から,文化が類似していて,日本の実践・研究に参考にしやすいと思われる東アジア圏(日本,中国,韓国,台湾等)の著者の論文を主に選定します.
今後,2か月に1回程度ご紹介する予定です.会員の皆様に興味を持っていただけそうな論文を選んで紹介させていただきます.関心のあるテーマなどございましたら,お知らせください.

日本老年看護学会国際交流委員会

INDEX

Vol.15

1.ランダム化比較試験

Effects on health outcomes following a nurse-led hearing loss management intervention designed for older adults: A randomized controlled trial
高齢者用に作成した看護師主導の難聴管理プログラムが高齢者の健康状態に及ぼす効果:ランダム化比較試験
Ya-Chuan Tseng, Nien-Tzu Chang, Sara Hsin-i Liu, Bih-Shya Gau, Tien-Chen Liu International Journal of Nursing Studies, 2025 June; 166: 105050.
URL: https://doi.org/10.1016/j.ijnurstu.2025.105050


要旨

 本研究は、高齢者向けに考案された看護師主導の難聴管理介入が、 コミュニケーション能力、孤独感、抑うつ、QOL、補聴器満足度に及ぼす影響を調査することを目的としたランダム化比較試験である。
 参加者は、10週間の看護師主導の難聴管理プログラム(介入群、N= 28)、またはプログラム待機中に通常診療を受けている群(待機者の対照群、N= 29)に無作為に割り付けられた。 プログラムには、(1)難聴管理方法に関する60分の1対1の健康教育セッション10回、(2)難聴に関する冊子の印刷、(3)参加者のコミュニケーションパートナー(家族等)との相談、 (4)週1回のフォローアップ電話が含まれた。
 ベースライン時(T0)、介入終了直後(3ヵ月後、T1)、3ヵ月後のフォローアップ時(ベースラインから6ヵ月後、T2)に自己報告による評価が行われた。 介入後、年齢調整して分析した結果、介入群の参加者は対照群と比較してコミュニケーション能力の改善が大きく、補聴器の満足感の増加も認めた。 対照群と比較した介入群のコミュニケーション能力の大きな改善は、3ヵ月後の追跡調査でも持続した。孤独感、抑うつ、QOLについては、両群間に差は確認されなかったが、 難聴管理プログラムは難聴高齢者の健康にプラスの影響を与えることが示唆された。


編集委員コメント

 著者によれば、65歳以上の高齢者では世界で30%の人々が難聴をかかえているにもかかわらず、 難聴の高齢者に対する看護師主導の介入の研究は限られている現状にあります。 難聴が高齢者の交流や社会参加を阻む要因になり、生活に大きな影響を及ぼしてしまうことは先行研究でも知られていることですが、 加齢による難聴への看護ケアはこれまで他の疾患と比較すると、十分に行われていない現状があります。 看護師主導の難聴管理のプログラムがコミュニケーション能力の改善と補聴器への満足度を高めたという本研究の知見は、 臨床の現場で積極的に難聴への看護介入を進める重要性を再認識するものになるでしょう。 加齢による難聴への教育的介入について更なる知見の蓄積が期待されます。


2.横断的混合研究

The importance of nature and wishes for nature-based experiences among older adults in assisted living facilities
介護付き老人ホームにおける自然の重要性と自然に根差した体験への希望
AnnikaKolster, LauraJ.Rautiainen, UllaL.Aalto,AnuJansson, TimoPartonen, AshbyLavellSach, JillSLitt, MontseMaso-Aguadoh, KaisuH.Pitkala
Geriatric Nursing, 63(2025) p.300 -306.
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2025.03.061


要旨

 植物や動物といった自然界の存在物や自然の要素を取り入れた介入は、 身体的、精神的、社会的な健康をサポートする可能性がある。ケアの一手段として、 自然環境での体験の開発を試みるには、対象グループのニーズを理解することが不可欠である。
 本研究の目的は、フィンランドの介護付き老人ホームで暮らす高齢者にとっての自然の重要性と、 自然の意味が加齢とともに変化しているかどうかについての彼らの認識を理解することと、 自然との体験に対する入居者の希望を探ることである。
 この横断的混合法調査は、介護付き有料老人ホームに入所している高齢者の自然との体験に対する希望を調査するもので、 854名の回答者を対象とした。診断名は医療記録から確認し、移動能力、身体機能、孤独感、抑うつ症状、自然に対して重要と感じるか、 自然へのアクセスのしやすさを尋ねた。
 回答者の平均年齢は83歳で、73%が女性、54%が認知症であった。屋外で自立して動けるのは24%だけで、55%が孤独感に苦しみ、 45%が少なくともときどき憂鬱を感じていた。テーマ別分析では、自然の多面的な意味が明らかとなった。自然は回復力の源であり、 身体活動の場でもある。96%が自然を重要視しているが、希望通りの頻度で自然に触れることができるのは51%に過ぎなかった。 回答者は、活動に対する明確で実現可能な希望を示し、83%が自然に根差した介入への参加に関心を持っていた。


編集委員コメント

 日本においても、高齢者施設において園芸療法やウォーキングなど自然との触れ合いを取り入れているところもあるが、 Covid-19の流行を境に、自然とのふれあいの機会も縮小され、まだ以前のようには活動を再開できていないところが多いと思われます。 本研究は、国際的なRECETAS(Re-imagining Environments for Connection and Engagement: Testing Actions for Social Prescribing in Natural Spaces)プロジェクトの一環で行われています。 RECETASは、多様な脆弱な人口層における孤独の軽減と生活の質の向上を主な目的として、 自然空間における社会的支援の取り組み(Nature-based interventions:NBIs) の開発と評価を目指しているそうです。自然と触れ合う意味や入居者の希望を調査した本研究の結果は、 高齢者のニーズを理解するとともに、どのように自然に根差した活動を生活に取り入れていけるかという支援内容や方法に関わってくるため、 有用な知見であるとともに、自然に対する考えには文化的解釈も含まれるため日本ではまた違った結果になると思われ興味深いところです。


3.探索的研究

Understanding the role of basic psychological needs and agency in the mental well-being of rheumatoid arthritis patients: An exploratory research
関節リウマチ患者の精神的なウェルビーイングにおける基本的心理的ニーズと主体性の役割を理解する:探索的研究
FanniBalik, Orsolya Vinczeb, Krisztina Csokasi, Melinda Poharnok
Geriatric Nursing 63(2025). p.505-51.
URL: https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2025.03.007


要旨

 関節リウマチ(RA)は慢性的な自己免疫疾患であり、身体障害や慢性疼痛を伴うため、患者の心理的な問題や健康関連のQOLの低下は一般的である。 精神的健康とウェルビーイングを維持するためには、患者が有意義で自律的な活動を維持し、他者への依存を受け入れることが重要である。 自己決定理論(Self-Determination Theory:SDT)は、能力、関連性、自律性という満たされた欲求が普遍的に心理的幸福を促進することを証明するものである。 本稿では、34人のRA患者を対象とし、主要なライフストーリーのエピソードをカテゴリー別に分析し、基本的な心理的欲求のテーマを明らかにした。 本研究の知見は、RAとともに生きる人々が、SDTに関連する欲求や動機づけの要因の観点から、自分たちの生活状況をどのように解釈しているのかを理解することに貢献するものである。 疾患への適応における基本的心理的ニーズの役割のさらなる認識と、この知見の臨床的意義は、実践におけるより良い患者中心のケアを促進するものである。


編集委員コメント

 60歳以降に発症する高齢者発症RAは、若年発症RAに比べ、併存疾患、関節障害、心血管リスク、 代謝性変化により予後不良となることがわかっています。関節リウマチ(RA)の発症と経過は複雑であり、 医学的、身体的、栄養学的、心理学的介入を統合した学際的アプローチが必要です。著者が述べているように、 看護師はケアの調整、患者の教育、特に高齢者に対する精神的サポートにおいて中心的で重要な役割を担っているため、 本研究の知見は患者の心理やニーズを理解し、よりよい看護に繋げるための重要な示唆の一つとなるでしょう。