この企画は,本学会会員の皆様の看護実践や研究活動等に役立つと思われる国際誌掲載論文を紹介することを目的としています.高齢者の生活施設で勤務する看護師の団体であるAmerican
Assisted Living Nurses Associationと老年看護の高度実践看護師の団体であるGerontological Advanced Practice Nurses
Associationの公式雑誌であるGeriatric Nursing誌から1回につき3つの論文のタイトルと要旨を翻訳しご紹介します.ご紹介する論文はGeriatric
Nursing誌の最新巻から,文化が類似していて,日本の実践・研究に参考にしやすいと思われる東アジア圏(日本,中国,韓国,台湾等)の著者の論文を主に選定します.
今後,2か月に1回程度ご紹介する予定です.会員の皆様に興味を持っていただけそうな論文を選んで紹介させていただきます.関心のあるテーマなどございましたら,お知らせください.
日本老年看護学会国際交流委員会
Sunhee Park PhD RN, Jung Hwan Park PhD MD (2024)
Effects of digital self-care intervention for Korean older adults with type 2 diabetes: A randomized controlled trial over 12 weeks
韓国の2型糖尿病高齢者におけるデジタルセルフケアを用いた介入の効果検証:12週間のランダム化比較試験
Geriatr Nurs. 2024 July–August; 58:155-161.
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.05.019
本研究は、韓国のⅡ型糖尿病を有する65歳以上高齢者105名を対象に、DiaNoteアプリを用いたセルフケアの効果をランダム化比較試験によって検証した研究である。 本研究では53名の介入群、52名の対照群の2群に分け、介入群にはDiaNoteアプリで、対照群には従来のログノートで食事、運動、薬剤、血糖値を12週間記録してもらった。 DiaNoteアプリを使用することによって、糖尿病患者がスマートフォンから日々の生活習慣の記録や血糖管理ができ、記録したデータを医療機関と連携させることで指導にも活用が可能である。 また、ディスプレイのデザインや機能設定は、高齢者が使いやすいように工夫されている。介入群に対しては、DiaNoteアプリから毎日リマインダーが届き、3日間連続血糖値が異常であった場合には警告通知が届いた。 セルフケアの有効性の評価項目は、HbA1c値、SDSCA(糖尿病セルフケアを評価)、自己効力感、DQOL(糖尿病患者への生活の質を評価)とし、一般化推定方程式にて解析した。 解析の結果、12週間の介入において、介入群ではHbA1c値が有意に減少し、SDSCA、DQOLは両群ともに有意に向上した。一方、自己効力感は両群ともに変化がみられなかった。 本研究より、デジタルセルフケアアプリを用いた介入は血糖コントロールに有用であり、従来の自己管理ノートと同様に生活の質の向上にも有用であることが明らかとなった。
この研究では、韓国のⅡ型糖尿病を有する高齢者を対象に、DiaNoteアプリというスマートフォンアプリを用いた糖尿病自己管理の効果検証についてまとめられています。 医療保健分野においてもデジタル化は急速に進展していますが、その一方で高齢者のデジタルデバイド(情報格差)問題は深刻化しています。 ご紹介したDiaNoteアプリは高齢者が使いやすいよう設計されており、デザインも工夫されています。 DiaNoteアプリについては論文に写真付きで説明されていますので、ご関心のある方は是非ご覧ください (※doi:10.1016/j.gerinurse.2024.05.019.にアクセスいただき、Appendix. Supplementary materialsの下にあるDownload : Download Word document (3MB)をクリックいただくとご覧いただけます)。
Li-Min Kuo, Yea-Ing L. Shyu, Yen-Kuang Lin, Wen-Chuin Hsu (2024)
Mediating effects of predictability between caregiving demands and caregiving consequences for persons living with dementia: A longitudinal study
認知症を持つ人の介護需要と介護結果との関連における介護の予測性の媒介効果:縦断研究
Geriatr Nurs. 2024 July–August; 58:430-437.
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.05.028
本研究は、認知症を持つ高齢者(以下、認知症高齢者)の家族介護者を対象に、介護需要(被介護者に対して家族介護者が行うタスクの量)と介護結果としての心身の負担との関連における介護の予測性の媒介効果について縦断的に検討することを目的とした。 参加者は神経科を受診する認知症高齢者の家族介護者200名とし、便宜的サンプリング法を用いてリクルートした。調査期間は2年間とし、自記式質問紙を用いて、属性、Predictability scale of Family Caregiving Inventory(日々の介護の中でどのくらい予測しながら介護ができるかを評価)、 中国版Caregiving Activities Scale of the Family Caregiving Inventory(介護へのタスクパフォーマンスを評価)、介護負担感、鬱症状、HRQoLについて、ベースライン、1年後、2年後の計3回測定した。統計解析には一般化推定方程式を用いた。 解析の結果、介護の予測性は介護需要と介護による心身の影響(介護負担、鬱症状、HRQoL)を媒介していることが明らかとなった。 本研究より、家族介護者は認知症高齢者からの介護需要が高くても、予測しながら介護を行うことで介護による心身への負担が低くなることが示された。
この研究は、認知症高齢者の家族介護者を対象に台湾で実施された調査です。認知症高齢者の家族介護者において介護需要と介護負担との間に介護の予測性が媒介していることが2年間の縦断研究により報告されました。 家族介護者への介護負担に関する研究はこれまで多く報告されており、家族介護者への支援も進められているものの、課題はまだまだ山積みです。 この研究は、認知症高齢者を介護する家族の介護負担軽減について考える上で有用な論文となっています。
Yuling Jia PhD, Yuexue Yue MSN, Yu Sheng PhD (2024)
Self-neglect as a mediator between family functioning and healthy aging in older adults living alone in rural China: A cross-sectional study
中国農村部の独居高齢者においてセルフネグレクトが家族機能とヘルシーエイジングとの媒介要因となる:横断研究
Geriatr Nurs, 2024 July–August; 58:410-415.
URL:
https://doi.org/10.1016/j.gerinurse.2024.06.004
本研究は、高齢者において家族機能とヘルシーエイジングとの関連におけるセルフネグレクトの媒介効果について検討することを目的とし、中国農村部の独居高齢者225名を対象に質問紙調査を実施した。 調査期間は2023年7-9月であった。ヘルシーエイジング、セルフネグレクト、家族機能に関して、それぞれHealthy Aging Instrument、Elderly Self-neglect Assessment (Rural)、Family Adaptation, Partnership, Growth, Affection, and Resolve scaleにより評価した。 解析の結果、家族機能とヘルシーエイジングとの間に正の相関が認められた。また、セルフネグレクトは家族機能とヘルシーエイジングを有意に媒介していた。 本研究より、中国農村部の独居高齢者において家族機能はヘルシーエイジングに有意に関連していること、その関連にはセルフネグレクトが媒介していることが明らかとなった。 今後、家族機能を見直しセルフネグレクトへの対策を行うことが地域で暮らす独居高齢者のヘルシーエイジングの促進に有用であることが示唆された。
この研究は、中国農村部の独居高齢者を対象としたセルフネグレクトに関する研究で、ヘルシーエイジングにはセルフネグレクトを予防し家族機能を向上することが重要であることが報告されています。
日本においても孤独死の8割以上はセルフネグレクトが原因であり、その多くが高齢者であることが報告されていることから(岸, 2023)、セルフネグレクトへの対応は喫緊の課題です。
この研究は、独居高齢者へのセルフネグレクトに関する課題や対策を考える上で有用な論文となっています。
岸恵美子. 高齢者の孤独・孤立(死)について考える セルフ・ネグレクトと高齢者(認知症を含む)の孤立. 日本認知症ケア学会誌 2023; 22 (3): 515-523